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  • 中央大学(メディア論・文化社会学)・辻 泉の書評ブログ : 『社会学ウシジマくん』難波功士(人文書院)

    →紀伊國屋書店で購入 「現代社会の「メディア・エスノグラフィ」として」 書は、マンガ『闇金ウシジマくん』(真鍋昌平)を題材に、「社会学の成果を紹介しつつ、社会学の多面性や魅力」(P115)を伝えようとしたものであり、現代日社会の様々な問題点が浮き彫りにされると共に、それらに対して社会学がどう向き合うことができるのかが示された著作である。 プロローグで示されたリスク社会論(「今のこの時代に、この地球に生きるがゆえに、誰もが避けようのないリスク」―P27)に始まり、都市社会学、家族社会学、教育社会学、メディア論、ジェンダー論、感情社会学、労働社会学、社会病理学、福祉社会学、そしてエピローグの社会階層論にいたるまで、リアルな社会問題を入り口にして、社会学の多様性とその魅力を伝える入門書としての試みは、十分に成功しているものと思われる。 あとは、主たる想定読者である学生たちが、マンガのウシジマ

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    gauqui 2013/02/28
  • 『三島由紀夫』 ルシュール (祥伝社新書) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 フランスではじめて出た三島由紀夫の評伝の邦訳である。 ガリマール書店といえば岩波書店と新潮社をあわせたようなフランスの老舗出版社だが、「ガリマール新評伝シリーズ」という入門的な評伝を出していて、祥伝社から7冊邦訳が出ている。書もその一冊だが、「新評伝シリーズ」ではなく祥伝社新書の一冊として刊行された。三島の評伝なら幅広い読者にアピールできると考え、大書店の外国文学のコーナーの片隅におかれるだけの「新評伝シリーズ」よりも目立つ場所に並ぶ祥伝社新書から出したというところだろう。 著者のジェニファー・ルシュールは30代の伝記作家で、ジャンク・ロンドンの伝記でゴンクール賞を受賞しているそうだが、日語ができるわけではないらしいし、日に取材に訪れた形跡も見られない。 ではなぜ書けたかというと、訳者あとがきでふれられているように、英語で書かれた二冊の伝記――ヘンリー・スコット

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    gauqui 2013/02/04
  • 『哲学の起源』柄谷行人(岩波書店) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 「イソノミアの再発見」 書では、ハンナ・アーレントの革命論、なかんずく「イソノミア」論が取りあげられている。アーレントに入れあげてきた私のような者にとって、その哲学者の中心問題に、著名な批評家が注目してくれるのは、喜ばしいことだ。 売れ筋のを紹介するのは欄の趣旨にそわないが、「哲学の起源」というタイトルを掲げて古代哲学史の書き換えを迫る著者の挑発につい乗せられて、やぶへび覚悟で応答するのであれば、それはそれで構わないだろう。古代哲学や政治思想史の専門研究者には慎重居士が多いので、専門分野に殴り込みをされてもはかばかしい反応は期待できない。書に飛びつくのは、生半可なアーレント読みにふさわしい役回りというものだろう。 先日行なわれた2013年度センター入試の科目「倫理」に、アーレントの用語法についての出題があった。『人間の条件』がつまみい的に引用され、そこで語ら

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    gauqui 2013/02/04
  • 『哲学原論/自然法および国家法の原理』トマス・ホッブズ(柏書房) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 「近代的なものの原典」 ついに出た。ホッブズの哲学体系三部作の完訳。哲学要綱草稿付き。2012年の読書界の収穫と言えば、書を挙げなくてはならない。総計1700頁に及ぶ大冊(!)の重みは、優に大辞典に匹敵する。持ち運びには不便このうえなく、体価格は二万円。誰が買うのか分からないような、開いた口がふさがらないほど反時代的なを出す出版社の――気が知れない、というか――意気にはほとほと頭が下がる。一冊でホッブズ著作集が揃えられると思えば、じつは決して高くない買い物である。 訳者は福島の大学教員と高校教員のペア。十七世紀に書かれたラテン語と英語の二通りのテクストを比較対照し訳出するという作業にかけられたであろう労力は、想像を絶する。一部を除きこれまで手の付けられなかった難事が果たされた今、日のホッブズ研究は新時代を迎えた。同時代人デカルトの影に隠れ傍流に甘んじがちであっ

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  • 『二〇世紀の戦争-その歴史的位相』メトロポリタン史学会編(有志舎) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 「二〇世紀は、義和団の乱とボーア戦争[に]よって幕を開け、第一次および第二次世界大戦という二度にわたる未曾有の大戦争を人類は経験した。一九一四年以降、二〇年代の一時期を除いて地球上に戦争がなかった年はないと言われ、戦争や紛争によって命を落とした者の合計数は一億九〇〇〇万人に及び、二〇世紀は史上最も多くの人びとが非業の死を遂げた時代であった。二〇世紀が「戦争と殺戮の時代」と呼ばれるゆえんである」。 書は、シンポジウム「二〇世紀の戦争-世界史的位相」を基にしている。シンポジウムの目的は、「第一に、第一次世界大戦、第二次世界大戦、戦後の一局面をイギリス、日ドイツなどの事例に基づいて実証的に明らかにすることにある。第二に、戦争という角度から二〇世紀を考察し、戦争が、何を変え、何を生み出し、そして現在に何を残したのかを問うことである。戦争によって刻印された二〇世紀を知り、

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    gauqui 2012/12/26
  • 『絵と言葉の一研究 「わかりやすい」デザインを考える』寄藤文平(美術出版社) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 著者は広告のアートディレクションやブックデザインを手がけるデザイナー、イラストレーター。書は、それまでの仕事をまとめたギンザ・グラフィック・ギャラリーでの展覧会「寄藤文平夏の一研究」と連動し、著者が、その生業において共通項ととらえる「絵と言葉」、そして「わかりやすい」デザインとはなにかについての考察をまとめたものである。デビュー作誕生のプロセスにはじまり、赤瀬川源平『千利休 無言の前衛』を対象としたさまざまな装幀のアイデアの羅列、書評等バラエティに富んだ構成。 第2章「お金とタッチ」にこんなエピソードがでてくる。著者が仕事をはじめた当初のこと。イラストレーションの依頼のことごとくが「ヨリフジさんのタッチで描いてほしい」というものだった。1日に何度となく「ヨリフジさんのタッチ」という言葉を聞かされることもあって、若きクリエイターは思った。 僕にはわからなかった。ラーメ

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    gauqui 2012/12/18
  • 『弱いロボット』岡田美智男(医学書院) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 「ひとりでできないもん、って、つぶやいていたんだけど」 ロボット開発の話かと思いきや、そうではなかった。このは私に「違う話」をしたがっている。いや、もちろん著者の岡田美智男さんは優秀な科学者でロボットの開発者で、そして、彼が執筆したのはロボットの話だ。独創的な発案で誕生したさまざまな、コミカルなロボットたちが次々に登場する。そしてそれらのロボットの愛らしさについてはここで言うまでもないのだが、たいしたこともできないそれらのロボットの存在理由が、なぜか、じんわり心に沁みた。 読書の真髄は、読み手に意味が託されているところにある。読み手にいかようにも読まれ、委ねられ、託されるが良である。誰もが読書を通して秘密の関心事の解を読み取ろうとするのである。ちょうど、このを読みだした時の私は人生最大のストレスに見舞われていて、いかにしてこれを回避できるか、手放せるかが関心事

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  • 『世界の美しい欧文活字見本帳 ― 嘉瑞工房コレクション』嘉瑞工房(グラフィック社) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 「良い組版ってなに?」 パソコンとともにワープロソフトが普及し、だれもが自分で文字を組んで文章を発表できるようになった。文章に合ったフォントを選び、強調したい部分には「太字」を使い、ちょっと窮屈だなと思ったら行間をあけるなり改行するなり、色々と工夫をこらす。 こんな、昔は印刷会社などのプロに任せていた組版作業が、いまや会社や自宅のパソコンで手軽にできるようになった。キーボードを叩くだけで文字が勝手に並んでくれ、お利口さんのワープロソフトのおかげで、禁則処理のようなややこしい作業も自動で実現される。 「良い組版とか、綺麗で読みやすい文字組みとかって聞くけど、そんなの見てもわかりません。とりあえずワープロソフトに任せておけば大丈夫でしょ」 これが多くの人の正直な感想ではないだろうか。 会社の会議なんかで配布する資料程度ならそれでもいいとは思うが、何度も読み返してほしい書籍

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  • 『ハングルの成立と歴史』 姜信沆 (大修館) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 韓国で1987年に上梓された姜信沆『訓民正音研究』の日語版で、著者自身が邦訳している。『訓民正音』の訳読と関連論文を四部にわけて収録している。 困ったことに書はすべて横書である。漢文を引用する場合はまず白文を掲げ、括弧ではさんだ邦訳を改行せずにつづけておりかなり読みにくい。横書にする必然性はないと思うのだが、なぜ横書にしたのだろう。 しかし内容は読みにくさを補ってあまりある。 第一部の「世宗とハングル」は総論でハングルが作られた背景やハングルの表現する音韻体系、ハングル製作と平行して進められた漢字音の整理を簡潔にまとめている。 書で蒙を啓かれたのであるが、ハングルは朝鮮語を表現するためだけの文字ではなかった。朝鮮語対漢文、話し言葉対書き言葉、声対文字という二項対立でハングルをとらえる論があるが、ハングル創制に係わった人たちには朝鮮語と漢文を対立関係でとらえる発想

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  • 『カーボン・アスリート――美しい義足に描く夢』山中俊治(白水社) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 「義足が有機体となる過程――義足ランナーをめぐる語りの中で」 2012年ロンドン五輪とパラリンピックの両方に出場した両足義足のランナー、オスカー・ピストリウス選手の躍動感、レース後半の超越的な速さを評者は鮮明に記憶している。五輪男子200mでは予選準決勝で敗退したが、パラリンピック男子200mでは、(彼にとっては不意な結果だったかもしれないが)銀メダルを獲得している。ピストリウス選手のチャレンジ精神、絶え間ない努力は称賛されるべきものだろう。 だが、その存在はスポーツのあり方、アスリートの身体とは何かということ自体を考えさせられるものでもある。実際、ピストリウス選手が弾力のある義足を着用して健常者の大会に出ることに対しては、これまでさまざまな次元で論争が生じている。 障害者とスポーツをめぐっては、テレビニュースやネットの言説でこのような政治的な問題や資金難のような問

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    gauqui
    gauqui 2012/10/01
    読みたし
  • 『メディア文化とジェンダーの政治学-第三波フェミニズムの視点から』田中 東子(世界思想社) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 「新たなジェンダー論からメディア文化をとらえた待望の一冊!」 書は、十文字女子学園大学講師の田中東子氏によって書かれたアンソロジーである。評者は、書を著者よりご恵投にあずかったが、無論、それだからと言ってここで取り上げるのではなく、ほぼ同世代に属するメディア文化研究者の待望の一冊として、書を高く評したいと思う。 書が描いているのは、主として今日の日社会における(若年)女性たちが織りなすメディア文化の実態である。 コスプレやスポーツファンなど、いくつものユニークな対象が取り上げられつつ、そうしたふるまいを当事者の視点に内在しながら、的確に描き出していく記述は、ざっと一読するだけでも十分に楽しめるものである。 加えて評者は、書を「二つの距離感」の絶妙なバランスの上に成立した著作として受け取った。それはすなわち、ジェンダー論であることを銘打ってはいるものの、かつ

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    gauqui 2012/10/01
    この書評でおかねもらえるのかー。装丁かっこよさそう。
  • 『Before and After Superflat : A Short History of Japanese Contemporary Art 1990-2011 』Adrian Favell(Blue Kingfisher) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 「「アート」から見た「現代日の転機」論」 わたしたちは今でも「ジャポニスム」の夢を見たいのだろうか。その21世紀版たる「クール・ジャパン」は、ここ数年来、日政府も旗振り役を務めている。そんな「クール・ジャパン」に冷や水を浴びせるような海外で出ていた。書“Before and After Superflat : A Short History of Japanese Contemporary Art 1990-2011”は、奥付によると2011年に香港の出版社Blue Kingfisherから刊行。今年の春ごろから、米英でも流通するようになって入手しやすくなった(著者も来日していたようだ)。サブタイトルの通り、1990年から2011年までの日の「現代アート」の「小史」である。書の「プロローグ」を読むと、いきなり「クール・ジャパンは終わった」(”Cool J

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    gauqui 2012/07/19
    「「アート」から見た「現代日本の転機」論」
  • 『括弧の意味論』木村大治(NTT出版) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 「理想の授業」 何とまあ、いい感じに地味なタイトルだろう。こういうはぜったいにおもしろいはず!と期待感とともに手に取ったが、予想以上に興奮した。「理想の授業」を受けたような気分である。若い頃にこんな授業を受けていたら人生変わっていたかもしれない。 著者は一九六〇年生まれだから、まさにニューアカ世代。元々の専門が文化人類学というのも時代を感じる。バブルだの軽薄だのと批判を浴びることも多い年代かもしれないが、こういう頭の使い方ができる人がいるのが強みだ。言語学的なソリッドな考え方をベースにしつつも、哲学、論理学、数学、社会学、人類学といった領域にも上手に浮気をして飛躍の助けにする、そのバランス感覚がたいへん魅力的なのである。文学的な鋭敏さも備えている。文章は不必要な深刻さや晦渋さとは無縁で、ごく透明。控えめに使われる比喩も効いている。 そもそも「理想の授業」とはいったい

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  • 『六〇年代演劇再考』岡室美奈子+梅山いつき編著(水声社) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 「<劇評家の作業日誌>(61)」 「現代演劇」はいったいいつから始まったのか。果たして「現代」を規定する時代区分はどこにあるのか。 そこで1960年代に始まった「アングラ演劇」あるいは「小劇場演劇」を「現代演劇」の出発点とすることはほぼ定説となっている。とりわけ象徴的な年は1967年だ。この年、唐十郎の状況劇場は紅テントを新宿・花園神社に立て、唐のライバルだった寺山修司は「演劇実験室・天井桟敷」を創設した。 ではその終点はどこにあるのか。わたしはオイルショックのあった1973年辺りを「運動」の終結点だと考えている。この年、蜷川幸雄と清水邦夫の櫻社は『泣かないのか、泣かないのか1973年のために?』という象徴的なタイトルの芝居で彼らの活動に終止符を打った。つまり書のタイトルとなる「60年代演劇」とは、70年代初頭まで含んだ演劇の革命期に相当すると考えていい。 書は、

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  • 『人文学と電子編集―デジタル・アーカイヴの理論と実践』 バーナード&オキーフ&アンスワース編 (慶應義塾大学出版会) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 中西秀彦『学術出版の技術変遷論考』の終章では今後の印刷所の生きのびる方途として文書の構造化支援をあげていたが、多くの人は文書の構造化という言葉にはなじみがないかもしれない。なじみがないのは言葉だけで、実際は普通に目にしている。 でも雑誌でも表題や見出しは大きな活字で組まれているだろう。重要な語句は傍点が振ってあったり、太字になっている。引用部分は字下げして、どこからどこまでが引用か一目でわかるようになっている。これが文書の構造化である。 以上あげたような構造化ならHTMLにもできるが、それ以上の構造化となると文書の性格に係わってくるので一律にはできない。それを可能にしたのがXMLなのだ。 欧米ではTextEncodingInitiativeがXMLによる文芸作品の構造化の研究を強力に進めており、その成果をガイドラインとして発表しているが、日ではあまり知られていない

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  • 『世界軍歌全集―歌詞で読むナショナリズムとイデオロギーの時代』辻田 真佐憲(社会評論社) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 「あの麻木久仁子氏もtwitter上で所望した貴重な網羅的資料集」 はじめに、で書かれているように、書は「軍歌の標」となるべく、「世界各国の軍歌をひとつの素材として取り上げることで、各位の興味や趣向にあわせて随意に翫賞してもらうこと」を目的としたものである。 よって取り上げる素材に比して、おどろくほどその内容はイデオロギッシュなものではない。国粋主義的な視点からそれを称揚するのでもなく、左派的な視点からそれを批判するのでもない。 それゆえにこそ、バランスよく多様な軍歌がちりばめられた書は、まずもってその網羅的な資料集としてのハンディな価値を評価すべきなのだろう。 だが、ある意味で筆者の意図したとおりに、その資料集は私(=評者)の社会学的な問題関心を幾重にも刺激してやまないものであった。 以下、箇条書き的にいくつか感想を記してみたい。 まず書を通して、軍歌という

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  • 『変わりゆく東南アジアの地方自治』船津鶴代・永井史男編(アジア経済研究所) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 まず、書冒頭で、「東南アジア諸国に地方分権改革の波が訪れてから10~20年以上が経過し、東南アジアの地方分権化は常態化したといってよい」と述べ、この事実を踏まえて、書ではこの10年間余に大きく変わった東南アジアの主要民主主義国の分権化の状況を把握しようとしている。その必要性は、つぎのように理由づけられた。「分権化当初にみられた政治的混乱が収まり、民主的な地方選挙と地方自治が定着するにつれ、先進国を模した分権化の理想や制度をめざすより、東南アジア各国の社会経済的実態に見合った制度が模索されるようになったからである」。 それは、公共サービスに対する関心が、サービスがカバーする内容ばかりでなく質の問題にも向けられるようになってきたからである。「書が着目するのは、まさに東南アジアの主要民主主義国の地方で起きつつあるこうした公共サービスの決定や配布方法の変化(「誰の資源を

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  • 『楽譜を読むチカラ』ゲルハルト・マンテル (久保田慶一訳 音楽之友社) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 演奏家としての将来を夢みつつ練習に余念がない音楽学生たちが「よりよい演奏を目指したい」と思いたった時には何に注目すべきか、そしてそれをどのように実践したらよいのかを懇切丁寧に解説した指南書である。いわゆる「演奏論」のジャンルに属する書籍だが、このように紹介すると「またか…」というため息も聞こえてきそうだ。 それはなぜか? 答えは簡単だ。いくらためになるでもこの手のものは、読んでいてわくわくしないことが多いからだ。しかしこのは違った。読んでいて「しんどいなあ」というストレスをまったく感じることなく、楽しめた。「当はもっとていねいに読み込むべきなのに、この先に何が書いてあるのかの方が気になって仕方ない」という気持ちだった。これは訳を担当した久保田の日語力に負うところが大きい。たとえば書籍のタイトルだが、原著名であるInterpretation vom Text z

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  • 『日本地図史』金田章裕・上杉和央(吉川弘文館) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 東南アジアでフィールドワークをしているとき、現地の人びとが地図が読めないために、難儀をしたことが何度かあった。地図が読めるようになる日の地理教育は、すごいとも思った。だが、あるとき、現地の人が地図を指してなにやらつぶやいているのを聞いて、ハッとした。「ここは陽が当たらない」と言っているのだ。日の近代地理教育で、「陽が当たらない」という発想はない。しかし、そこの住民にとって、農作物を植えたりする生活上、「陽が当たらない」ことはひじょうに重要なことだ。自分の調査のことしか考えず、地図がだれのためなんのためにあるのかを考えていなかった自分が恥ずかしくなった。書でも、まずそれぞれの時代や社会が、地図になにを求めようとしたのかを基に読んでいこうと思った。 書の目的は、「はしがき」でつぎのように述べられている。「日は、この地図史をたどる資料にめぐまれていると言ってよい

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  • 『新しいASEAN-地域共同体とアジアの中心性を目指して』山影進編(アジア経済研究所) - 書評空間::紀伊國屋書店 KINOKUNIYA::BOOKLOG

    →紀伊國屋書店で購入 半信半疑でミャンマーの「民主化」報道を見聞きしている者に、書はそれを確信させるひとつの材料を提供してくれる。ミャンマーの「民主化」に、ASEANが大いにかかわっているのである。書は、そのASEANが「一九六七年の設立から現在までの歴史を辿るとともに、どこへ向かおうとしているのかを多面的に展望する」概説書である。 「民主化」の兆しが見えだしたミャンマーに、日を含め各国が急速に接近している。豊富な天然資源に加えて、人口5000万の格安の人件費が魅力だ。どれだけ安いか比較してみよう。日貿易振興機構の調べによる2011年8月時点の月給は、ミャンマー68ドル、ほかの東南アジアでは安い順からカンボジア82、ベトナム123、インドネシア205、フィリピン248、タイ286、マレーシア344、シンガポール1285である。隣国の中国306、インド280、そしてユニクロなどが進出

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