アメリカでしばしば話題になる「ウォーク文化」とはいったい何なのか。慶應義塾大学教授で、近著に『アメリカとは何か 自画像と世界観をめぐる相剋』があるアメリカ研究者の渡辺靖氏が解説する。 「ウォーク」の起源 この1年間に6回ほど米国に出張し、さまざまな大学やシンクタンクを訪れたが、そのたびに盛り上がるのが「ウォーク文化」に関する話だ。ウォークと言っても健康増進のための“walk”(歩行)ではなく、”wake”の過去分詞”woke”(目覚めた)を指し、具体的には「見えない差別や偏見のコードにも神経を研ぎ澄ましていること」を意味する。日本語の「意識が高い」「意識が高い人たち」といった表現の意味するところに近いが、より挑発的なニュアンスがある。 「ウォーク」という表現は1920年代前後から黒人の間で用いられ、1938年に発表された黒人ミュージシャン、レッドベリーの楽曲「スコッツボロ・ボーイズ」の最後