作家の桜庭一樹さんが、直木賞受賞後約1年を経て、書き下ろし大作『ファミリーポートレイト』(講談社)を発表した。デビューから今年で10年。家族の絆(きずな)の不可思議さを大胆に問いかけてきた作家は、近年の急速な評価の高まりの中で何を思うのか。(佐藤憲一) 罪を犯した母マコに連れられ逃避行を続ける少女コマコ。老人ばかりの城塞(きずな)都市や異常気象に襲われた温泉町を転々とし、生きるために必要な「物語」を発見していく――コマコの5歳から34歳までの魂の遍歴をたどる成長譚(たん)には、「名誉や財産も信じがたい今の時代には、強靱(きょうじん)な美学を持ちながら自分に確信をもてない主人公が書かれるべきだ」との思いが込められている。死んだ女性を花嫁姿で送る儀式や行進する豚の足の幻想など、南米文学を思わせるエロスと死のイメージは鮮烈だ。 <この世の果てまでいっしょよ。呪(のろ)いのように。親子、だもの>。