うちのポールはだめだ、なんの意外性もない。彼女がそんなふうにこぼすので私は笑う。ポールは彼女の新しい同僚で、彼女の会社が外資系の会社と吸収にかぎりなく近い合併をしたのでやってきた社員のひとりだ。ポールはアフリカ系アメリカ人で、彼女の隣の席に座っている。彼らはやや特殊な専門職であり、ふだんの勤務は私服でかまわない。ポールはリーバイスをはく。ポールはコークをのむ。ときどきペプシをのむ。それからやはりコークがいいと言う。 まあまあと私は彼女をなだめ、いい人そうじゃんと言う。彼女はうんざりしたように、ああいい人だよとこたえる。こないだなんかスティーブ・ジョブズに関する本を読んで「zenに興味を持った」って真顔で言う、その本がさ、禅をキーワードにジョブズのプレゼン技術を語る本なわけ。ああもう、どこまで、ステレオタイプなの。私はげらげら笑い、私その人のこと、わりと好きだな、と言った。私もまあ嫌いじゃな
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