ささやかな「災害ユートピア」 今から10年ほど前の話だ。 当時、ぼくは5軒続きの2階建長屋に住んでいた。新築だったので住民は我が家と同様に若い夫婦が多かった。しかし、まだ子どもがいなかったぼくらに近所づきあいなるものは存在しなかった。 あるとき、夫婦でぼくの実家に一泊したことがあった。その帰り、最寄り駅から長屋に向かって歩いていると、妙なことに気づいた。我が家の窓明りがついているのだ。「あれ、電気消し忘れたっけ?」などと話ながらさらに長屋に近づいていくと、その窓のガラスが割れているのが目に入ってきた。 「空き巣だ」 もし、まだ家のなかにいたらどうしよう?とりあえず、そっと玄関のドアを開け、なかに置いてあった傘を手に取る。空き巣がまだいた時に応戦するためだ。勇気を出して、そのまま家に上がる。 あちらこちらを見たが、どうやら空き巣が潜んでいる様子はない。だが、家のなかは明らかに土足で踏み荒らさ