2007/11/7 柄谷行人 1 現象と物自体 カントといえば、現象ともの自体という区別が有名である。われわれは現象しか知りえない、という不可知論が知られている。しかし、現象というのは、カントの場合、特に悪い意味ではない。現象を認識するということは、外からやってくる感覚的なデータを、主観によって処理し構成するということである。具体的にいえば、それは先ず仮説を立てて、実験するということだ。現象が主観によって構成されるというのは、このようなことを意味する。 別の言い方をすれば、近代科学は、限られた事例(単称命題)から、法則=普遍的命題(全称命題)を引き出すものである。しかし、これはいかにして可能なのか。カントは、一般的な主観による構成にその根拠を求めたようにみえる。が、カール・ポパーは、それでは不十分だと考えた。すべての事例を調べることはできないからだ。 たとえば、「すべて人間は死ぬ」という全