邦題というものを意識するようになったのはいつ頃だったろう。僕は今、人生の紆余曲折を経て、海外の作品を(音楽をラジオDJとして、映画や文学を翻訳家として)日本に紹介することを生業としている。つまり、仕事柄、常日頃から日本版タイトルを付けたり評価したり、わりと専門的に関わっているわけだが、邦題が時にはその作品の印象を劇的に変えてしまうことすらあると気づいたのは、振り返ってみればこの仕事をするもっとずっと前だった。まずはそこから話を始めたい。 高校2年生の秋、校内の掲示板にある映画のポスターが貼り出された。普通ならありえないことだったのでよく覚えている。折しも、エリック・クラプトンとベイビー・フェイスがタッグを組んだ『チェンジ・ザ・ワールド』が日本でも大流行していた頃で、当時ギターに夢中だった僕は、「あ、クラプトンの新曲が使われてる映画や」と目を輝かせていた。その映画とは『フェノミナン』(199