プロローグ グーグル翻訳の驚くべき向上 2016年11月初旬のある金曜日の夜遅く、人間とコンピュータとの新しい関係の研究で有名な東京大学教授の暦本純一は、インターネットを使いながら講義の準備をしていた。 そのとき、自分のSNS上のフィードに、いくつかの奇妙なポストが舞い込んでくるのに気が付いた。グーグルが手がけるサービス「グーグル翻訳」によるものだが、いつものグーグル翻訳とは違う。明らかに、突如として驚くべき向上を遂げたようにみえた。 暦本はグーグル翻訳を自ら利用して、実験を始めることにした。そして、彼はただちに驚愕することになる──。 暦本は眠りにつかねばならなかったが、グーグル翻訳は、彼の想像力にとりついたままだった。暦本はこの最初の発見を、自身のブログに記した。 まず彼は、英語から日本語への翻訳を調べた。『グレート・ギャツビー』の1957年の野崎孝訳と、より最近の村上春樹訳の2バージ