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ブックマーク / huyukiitoichi.hatenadiary.jp (28)

  • どうすれば相手の意見を変えられるのか──『エビデンスを嫌う人たち: 科学否定論者は何を考え、どう説得できるのか?』 - 基本読書

    エビデンスを嫌う人たち: 科学否定論者は何を考え、どう説得できるのか? 作者:リー・マッキンタイア国書刊行会Amazonこの『エビデンスを嫌う人たち』は、『「科学的に正しい」とは何か』の邦訳が先日刊行された気鋭の哲学者リー・マッキンタイアによる「科学否定論者を説得するための方法」についての一冊である。科学否定論者とは、たとえば人為的な気候変動は起こっていないと主張する気候変動否定者に、反ワクチン、反コロナ、果てには地球は平面だと主張する地球平面説を支持している人らのことを指している。 こうした科学否定論者に共通点は存在するのか。また、彼らにエビデンスを提供することでその考えを変えることができるのか。エビデンスを提供するといっても、どのように提供するのが最も効果的なのか。エビデンスで人の意見が変えられないのだとしたら、他に変える方法はあるのかを、様々な研究をもとにして紹介する──だけでなく、

    どうすれば相手の意見を変えられるのか──『エビデンスを嫌う人たち: 科学否定論者は何を考え、どう説得できるのか?』 - 基本読書
  • 「読む」とき、何が起こっているのか?──『読めない人が「読む」世界:読むことの多様性』 - 基本読書

    読めない人が「読む」世界:読むことの多様性 作者:マシュー・ルベリー原書房Amazon読書は日常的な行為ではあるが、実はそのやり方は人によって大きく異なる。書かれている文字を読んで、その意味を理解したり解釈したりするっていうだけでは? と思うかもしれないが、そこに収まらない読み方をする人が多数いるのである。 書『読めない人が「読む」世界』(原題:Readers Block)は、型破りな方法で読む人を取り上げていく一冊だ。たとえば認知症の患者は、少しずつ記憶が抜け落ち、短期的な記憶力も低下していく。長篇がスラスラ読めた人であっても、認知症が進行するにつれ、一ページ分の記憶も持たなくなり、話の筋が追えなくなる。そうした人たちは単純に「読む」という営みから除外されるのかといえば、そうではない。 ある認知症患者は長篇を読む喜びを諦めた代わりに短篇をじっくりと読み、楽しむ方向に切り替え、物語の展開

    「読む」とき、何が起こっているのか?──『読めない人が「読む」世界:読むことの多様性』 - 基本読書
  • 医学の発展に貢献したにもかかわらず、歴史から抹消されてしまった人々を掘り起こす──『帝国の疫病 - 植民地主義、奴隷制度、戦争は医学をどう変えたか』 - 基本読書

    帝国の疫病――植民地主義、奴隷制度、戦争は医学をどう変えたか みすず書房Amazon「疫病(えきびょう)」とは、集団発生する伝染病などのことを指す。少し前ではコレラや赤痢。最近ではコロナウイルスなどのような病のことである。同様の病は昔からあったが大きな問題になるようになったのは多文化がより頻繁に交錯するようになったこの数百年のことで、疫病の広がりと共に疫学もまた発展を遂げてきた。 書は主に疫病に対抗する疫学がどう発展してきたのかの歴史をたどるわけだが、そこからさらに踏み込んで「疫学の発展に大きな貢献を果たしてきたにもかかわらず、これまで歴史からその存在を抹消されてきた人たち」に光を当てた一冊である。どういうことかといえば、1700年〜800年代はまだまだ観測技術や遺伝子についての理解も進んでいなかったから、医学の理論や検証のために用いられてきた主な手段は現場を観察し法則を見つけたり検証を

    医学の発展に貢献したにもかかわらず、歴史から抹消されてしまった人々を掘り起こす──『帝国の疫病 - 植民地主義、奴隷制度、戦争は医学をどう変えたか』 - 基本読書
  • 何千時間も使って未解決事件を解決しようと奮闘する人々──『未解決殺人クラブ~市民探偵たちの執念と正義の実録集』 - 基本読書

    未解決殺人クラブ~市民探偵たちの執念と正義の実録集 作者:ニコル・ストウ大和書房Amazon市民探偵というと日でイメージとして上がるのは毛利小五郎(with/江戸川コナン)か金田一あたりだろうが、実は世の中には多種多様な市民探偵が存在する。 事件現場にかけつけたり、たまたま居合わせたりして事件を解決するのではなく、市民探偵の多くはインターネットで公開された情報を集め、フォーラムで議論をしながら事件解決への糸口を探す。やっていることは地味な行為の積み重ねだが、解決にあたって重要な役割を果たすことも多い。確かに彼らも市民探偵なのだ。 その執念の凄まじさは、おそらく多くの読者の想像を超えたものだ。たとえばテネシー州の元工場労働者トッド・マシューズは、両目を失い腐敗した状態で大きなバッグに入れて放置されていたことから「テント・ガール」と呼ばれていた身元不明の女性を、11年にもわたって調査して、最

    何千時間も使って未解決事件を解決しようと奮闘する人々──『未解決殺人クラブ~市民探偵たちの執念と正義の実録集』 - 基本読書
  • 病の原因を個人の身体と心理だけではなく、文化や社会にも求め、統合する試み─『眠りつづける少女たち――脳神経科医は〈謎の病〉を調査する旅に出た』 - 基本読書

    眠りつづける少女たち――脳神経科医は〈謎の病〉を調査する旅に出た 作者:スザンヌ・オサリバン紀伊國屋書店Amazonスウェーデンには「あきらめ症候群」などと称される、特殊な病が存在する。この症状があらわれると、歩いたり話したりをやめ、場合によっては目をあけるのもやめ昏睡状態になってしまう。特徴的なのは、これが主にスウェーデンにおいては難民の家族の「子ども」、特に少女たちを中心に発生することだ。 昏睡状態に陥った子どもたちに、CATスキャン、血液検査、脳波検査など無数の検査が行われたが、その結果はつねに正常。運がよければ数ヶ月で回復できたが、場合によっては何年も目覚めない子もいた。昏睡状態に陥る原因は純粋に心理的なメカニズムで説明できるのか。それとも、重度の生理的なストレス反応にすぎないのか。 祖国で苦しい思いをしてスウェーデンへと流れきた人々、中でも子どもが強いストレス環境下にいるのは容易

    病の原因を個人の身体と心理だけではなく、文化や社会にも求め、統合する試み─『眠りつづける少女たち――脳神経科医は〈謎の病〉を調査する旅に出た』 - 基本読書
  • 弾圧が行われているとされる新疆ウイグル自治区で、実際に何が行われているのか?──『AI監獄ウイグル』 - 基本読書

    AI監獄ウイグル 作者:ジェフリー・ケイン新潮社Amazonこの『AI監獄ウイグル』は、近年弾圧が激しくなっているとされるウイグルで、実際に何が行われているのか、150人以上のウイグル人の難民、技術労働者、政府関係者、元中国人スパイにインタビュー取材をしその結果をまとめた一冊になっている。 書で描き出されているのは、チャットアプリによるメッセージや電話がすべて監視され、家の前には個人情報が詰まったQRコードが貼られ、身体情報から移動履歴などすべてのデータを元に犯罪を起こす可能性のある人物をAIが自動的にピックアップする「デジタルの牢獄化」したウイグルの姿である。これまで、断片的なニュース情報を読むことでウイグルで相当なことが行われていることはわかっていたつもりだったが、実際に収容所などを体験した人物のレポートはあまりにも衝撃的だ。 読み終えた夜は、自分が強制収容所に入っている悪夢を見たぐ

    弾圧が行われているとされる新疆ウイグル自治区で、実際に何が行われているのか?──『AI監獄ウイグル』 - 基本読書
    iinalabkojocho
    iinalabkojocho 2022/01/23
    読む。その後また書く
  • 2021年に刊行され、おもしろかったノンフィクションを振り返る - 基本読書

    2021年も終わろうとしているので、今年刊行されたの中でも特におもしろかった・記憶に残ったノンフィクションを振り返っていこうかと。昨年に引き続き今年もの雑誌の新刊ノンフィクションガイドを担当していたので、冊数はノンフィクションだけで200冊ぐらいは(数えているわけではないけど)読んでいるはず。 とはいえ、無限にピックアップしても仕方ないので、10冊目安に紹介していこう。 まずは科学書から 彼らはどこにいるのか 地球外知的生命をめぐる最新科学 作者:キース・クーパー河出書房新社Amazon科学系のノンフィクションの中でも宇宙系から取り上げていくと、まず紹介したいのはキース・クーパーによる『彼らはどこにいるのか: 地球外知的生命をめぐる最新科学』。今年は中国最大のファーストコンタクトSF『三体』三部作が完結し、年末に邦訳が刊行されたアンディ・ウィアー最新作もファーストコンタクトSFの傑作で

    2021年に刊行され、おもしろかったノンフィクションを振り返る - 基本読書
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    iinalabkojocho 2021/12/22
    7割ぐらいは読んだ。どれも面白い。
  • 脳に直接電気刺激を与える実験の先駆者を追う『闇の脳科学』から新しい技術によって蔓延する虚構のプロパガンダを暴き出す『操作される現実』まで色々紹介!(本の雑誌掲載) - 基本読書

    はじめに の雑誌2021年1月号に載った原稿を転載します。毎回、連載ではある程度取り上げるの間に話題的なつながりだったり連続性があったらいいな〜と思いながら選んでいるんだけど今回は見事に一切何の繋がりもないばかりである。虚構のプロパガンダに色覚に独学にスケールに……驚くほどにばらばらだ。でも一冊一冊はどれもそのテーマの中で興味深いものばかりなおんでぜひ手にとって見てね。原稿はちなみに天才にあたってかなり手を入れています。 の雑誌原稿 闇の脳科学 「完全な人間」をつくる (文春e-book) 作者:ローン・フランク,仲野 徹・解説発売日: 2020/10/14メディア: Kindle版ローン・フランク『闇の脳科学 「完全な人間」をつくる』(赤根洋子訳/文藝春秋)は、脳に直接電気刺激を与えて、うつ統合失調症を治し、同性愛者を異性愛者に変えようとして、世間から批判を喰らった科学者ロバ

    脳に直接電気刺激を与える実験の先駆者を追う『闇の脳科学』から新しい技術によって蔓延する虚構のプロパガンダを暴き出す『操作される現実』まで色々紹介!(本の雑誌掲載) - 基本読書
  • 数学概念が人類に生まれつきそなわっていないことを示す、数と言語人類学──『数の発明――私たちは数をつくり、数につくられた』 - 基本読書

    数の発明――私たちは数をつくり、数につくられた 作者:ケイレブ・エヴェレット発売日: 2021/05/08メディア: 単行 はじめに 数の概念は、生まれつき備わっているものではない 数の概念がないなんてことがあるのか? 1〜3 おわりに はじめに 『ピダハン──「言語能」を超える文化と世界観』という、左右や数字の概念を持たない珍しい言語の持ち主であるアマゾンの少数民族について書かれたノンフィクションがある。この、少数民族の話ながらもそこからチョムスキーの言語能否定の話や、幸せとは、文化とは、宗教とは、といった話に繋がっていく普遍的な話を展開しており、そのユーモア溢れる筆致もあって世界的に話題になっていった。 今回取り上げたい『数の発明』は、その『ピダハン』の著者ダニエル・L・エヴェレットの息子、ケイレブ・エヴェレットによる著書である。親子揃って言語学者とは凄いが、ケイレブは父親であ

    数学概念が人類に生まれつきそなわっていないことを示す、数と言語人類学──『数の発明――私たちは数をつくり、数につくられた』 - 基本読書
  • 精神病院に偽患者を送り込みその脆弱性を指摘した有名な実験は、実は間違いだらけだった──『なりすまし——正気と狂気を揺るがす、精神病院潜入実験』 - 基本読書

    なりすまし——正気と狂気を揺るがす、精神病院潜入実験 (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズIII-16) 作者:スザンナ・キャハラン発売日: 2021/04/21メディア: 単行(ソフトカバー)近年、かつて行われた有名な心理学系の実験が、再現実験の失敗やデータ不備の発見により、実は間違っていたという事実が次々明らかになっている。たとえば有名なものに、マシュマロ実験がある。この実験では、マシュマロを皿の上におき、「それは君にあげるけど、私が戻ってくる15分の間にべるのを我慢していられたらもう一つあげる」と指示する実験で、ここで自制し、より大きなリターンを得られた子供ほど、大人になっても優秀と判断される割合が大きかったことを示した。 1970年代に実施されたこのマシュマロ実験は話題になり、いろいろなノンフィクションで目にしていたから、当につい最近まで僕もこれは正しい実験だと思っていた

    精神病院に偽患者を送り込みその脆弱性を指摘した有名な実験は、実は間違いだらけだった──『なりすまし——正気と狂気を揺るがす、精神病院潜入実験』 - 基本読書
    iinalabkojocho
    iinalabkojocho 2021/04/24
    “『今や問題はこうだ。ローゼンハンは自分の発見をできるだけ正当なものに見せるためにn数(つまりデータ収拾するサンプル数)を増やそうと、一から偽患者をでっちあげたのだろうか?』”
  • 映像だけではなく文章に関わる人にもおすすめしたい、「編集」の難しさと楽しさについての絶品!──『映像編集の技法 傑作を生み出す編集技師たちの仕事術』 - 基本読書

    映像編集の技法 傑作を生み出す編集技師たちの仕事術 作者:スティーヴ・ハルフィッシュ発売日: 2021/01/21メディア: 単行『映像編集の技法』は映像編集技師であるスティーヴ・ハルフィッシュが、スターウォーズにシビル・ウォーなど大作映画から『ブレイキング・バッド』のようなドラマの担当まで、50人以上の映像編集者へのインタビューをまとめた一冊である。 映像編集といっても体験したことがないと想像しづらいだろう。たとえば、一映画では当然映像は一繋がりの一しかないが、撮影時には何回も同じシーンも撮りなおし、カメラも複数台存在する。そうなったら、上がってきた映像や複数あるカットの中から、最適なものを選びとっていかなければならない。複数のテイクにいい演技が分散していたら、それをつなぎ合わせることもあるし、台詞の間をほんの一瞬切り詰めることで印象を大きく変えたり、映像の時間の流れをコントロー

    映像だけではなく文章に関わる人にもおすすめしたい、「編集」の難しさと楽しさについての絶品!──『映像編集の技法 傑作を生み出す編集技師たちの仕事術』 - 基本読書
  • 認知科学の観点から最適な脚本を導き出すための一冊──『脚本の科学 認知と知覚のプロセスから理解する映画と脚本のしくみ』 - 基本読書

    の科学 認知と知覚のプロセスから理解する映画と脚のしくみ 作者:ポール・ジョセフ・ガリーノ,コニー・シアーズ発売日: 2021/01/26メディア: 単行先日認知科学の観点からみた、最強の英語勉強法について書かれた『英語独習法』の記事を書いたばかりだが、今度は認知科学meets脚術! 脚技術について書かれたは数多くあるが、認知科学・神経科学からのアプローチははじめて読んだ。 数多くある脚術のだが、矛盾していたり、違うことを言っているケースも珍しくない。脚を17のステップにわけたり、22にわけたり、全体を三幕にわけたり、七幕だったり、さまざまな理論があり、読むと全部もっともらしく見えるが、それに反するヒット作も多々ある。書は、そうした先行する脚術を拾い上げながら、人間の視覚や脳の認知的に、よく用いられる三幕構成にはどのような意味があるのか、どんな技術を用いることで人

    認知科学の観点から最適な脚本を導き出すための一冊──『脚本の科学 認知と知覚のプロセスから理解する映画と脚本のしくみ』 - 基本読書
  • 書評・感想記事の書き方について - 基本読書

    なんとなく、一度僕の書評・感想記事の書き方についてまとめておこうかと思った。先日下記のようなブログに関する記事を寄稿したところ、幾人かがこれに触発されてブログを書いてくれたようで、個人的に嬉しかったから、というのが大きい。 blog.hatenablog.com 書評(でも感想でもなんでもいいんだが)の書き方の正解を教えるとかそういうわけではなく、単純に僕がどうやって記事を書いているのか、書くときに何を考えているのか、ということの簡単なまとめである。人によって感想ブログといっても書き方は全然違うはずで、書き方の違いを見比べてみるのもおもしろいんじゃないか。 手順 当たり前だが一度通読する。その時点でブログに書くかどうかを検討して(書かないことも多い。あまりおもしろくないな、と思ったり、おもしろいと思ってもタイミングを逃すこともあるし、書きづらくてスルーしてしまうこともある)、載せる、となっ

    書評・感想記事の書き方について - 基本読書
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    iinalabkojocho 2021/01/06
    非常に良いロジカルかつ「そこそこエモい」ポイント抑えが上手い方だと思う。下手な人は内容要約が雑だ。下手するとほとんど説明しちゃう。それがなくて読みたくなるのが「いとエモい」
  • 罪を犯した人間をただ投獄するのは、正しいか──『囚われし者たちの国──世界の刑務所に正義を訪ねて』 - 基本読書

    囚われし者たちの国──世界の刑務所に正義を訪ねて 作者:バズ・ドライシンガー発売日: 2020/12/25メディア: 単行(ソフトカバー)この『囚われし者たちの国』は、刑事司法教育を教える大学ジョン・ジェイ・カレッジ・オブ・クリミナル・ジャスティスの女性教授であるバズ・ドライシンガーが9カ国の刑務所をまわって、今あるべき刑務所、許し、罪と罰の関係性について思考をめぐらせるルポタージュである。日にいると法律に違反したら(執行猶予はあるけど)投獄されて自由を制限されるのは当たり前でしょ、と思うが、世界を見渡してみると刑務所も罪の償い方も千差万別であり、何が正しいのかわからなくなってしまう。 書の著者は、出発点はアメリカの刑務所の実態のひどさから、刑務所についての疑問がスタートしている。アメリカが世界人口で占める割合は5%弱なのに、囚人が収容されている人数は230万人、世界の25%に達する

    罪を犯した人間をただ投獄するのは、正しいか──『囚われし者たちの国──世界の刑務所に正義を訪ねて』 - 基本読書
    iinalabkojocho
    iinalabkojocho 2021/01/02
    大学改革がうるさいが、こう言う良書をアメリカのカレッジの先生が書くのがあちらの分厚さだよなぁ。学問の基礎の。
  • この10年で最高のロシアSFと言われる傑作終末SF──『サハリン島』 - 基本読書

    サハリン島 作者:エドゥアルド・ヴェルキン発売日: 2020/12/22メディア: 単行このエドゥアルド・ヴェルキン『サハリン島』は、ロシアのメディアで、この10年で最高のロシアSFと評されているSF長篇である。「この10年で最高」というのは、気軽に使うにはリスキィな褒め言葉だ。何しろ、これでつまらなかったら他のこの期間に発表されたロシアSFはいったいなんなんだ、という話になってしまう。 なので、話半分というか……、勢い余って言い過ぎちゃった人がどっかのメディアにいたのかな? ぐらいの心持ちで読み始めてみたのだけれども、いやはや……。これはたしかに、この10年で最高のロシアSFかどうかはわからないがめちゃくちゃおもしろい! 表面的な題材だけ抜き出してみれば、ゾンビ的な感染症に第三次世界大戦による終末世界化、変容してしまった世界を二人の男女が旅をするという、ありきたりなポストアポカリプス物

    この10年で最高のロシアSFと言われる傑作終末SF──『サハリン島』 - 基本読書
  • 言語や音楽は、自然界を模倣している──『〈脳と文明〉の暗号 言語と音楽、驚異の起源』 - 基本読書

    〈脳と文明〉の暗号 言語と音楽、驚異の起源 (ハヤカワ文庫NF) 作者:マーク チャンギージー発売日: 2020/12/03メディア: Kindle版この『脳と文明の暗号』はマーク・チャンギージー『ヒトの目、驚異の進化 視覚革命が文明を生んだ』の続編というか、姉妹篇である。講談社で単行として刊行されていたものの早川書房での文庫化になるが、これは今読んでも鮮明でおもしろい。 huyukiitoichi.hatenadiary.jp 『ヒトの目、驚異の進化』は書名通りに、人間の目に焦点を当てた一冊だった。たとえば、ヒトの目は短、中、長の波長を把握し、膨大な数の色を見分けることができる3色型色覚を持っているのだが、哺乳類の多くは2色型である。なぜヒトは3色型を必要としたのか? また、目が前にしかついていないのはなぜなのか? 前と後ろについていれば、360度見渡せて便利なのに──といった疑問に答

    言語や音楽は、自然界を模倣している──『〈脳と文明〉の暗号 言語と音楽、驚異の起源』 - 基本読書
  • 今年ベスト級ノンフィクション『もうダメかも──死ぬ確率の統計学』やアメリカの民間刑務所の実態を描き出す『アメリカン・プリズン』を紹介!(本の雑誌2020年7月号掲載) - 基本読書

    まえがき の雑誌2020年7月号掲載の原稿を転載します。記事名にも入れているけど、『もうダメかも──死ぬ確率の統計学』は大作ひしめく今年のノンフィクションの中でも上位にい込む一冊だった。人生というのはリスクに満ち溢れていて、我々にできるのはできるかぎりリスクを減らし、時にリスク覚悟で突っ込んでいくことだけだ。 もう一つ、地味におもしろかったのがアメリカの民間刑務所のひどすぎる実態を潜入調査した『アメリカン・プリズン』。囚人一人あたり何ドルともらえる金がきまっているので、民間刑務所としては囚人一人あたりに金をかけなければかけないほど儲かるというインセンティブが生まれて、異常ともいえる仕打ちが横行しているんだよね。ほんと、読んでてびっくりしただった。この月はスゴの人のスゴも紹介! 原稿 もうダメかも――死ぬ確率の統計学 作者:マイケル・ブラストランド,デイヴィッド・シュピーゲルハルタ

    今年ベスト級ノンフィクション『もうダメかも──死ぬ確率の統計学』やアメリカの民間刑務所の実態を描き出す『アメリカン・プリズン』を紹介!(本の雑誌2020年7月号掲載) - 基本読書
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    iinalabkojocho 2020/12/11
    “今年ベスト級ノンフィクション『もうダメかも──死ぬ確率の統計学』やアメリカの民間刑務所の実態を描き出す『アメリカン・プリズン』を紹介!(本の雑誌2020年7月号掲載)”
  • 空間認知の心理学・神経科学的基盤から、漫画の中の空間論まで──『Mind in Motion:身体動作と空間が思考をつくる』 - 基本読書

    Mind in Motion:身体動作と空間が思考をつくる 作者:バーバラ・トヴェルスキー森北出版Amazon意識、思考といったものは、我々の頭の中だけで作られるものではなく、空間と身体動作と意識の相互作用・統合によって形作られていくものである。たとえば、極端なことをいえば人間の赤ん坊は自分の手や足といった体が自分のものであることを理解していない。手を自分で、意識的に動かしているとは気づいていない。 親が指を近づけると、最初赤ん坊は握るが、それは反射的なものであって、見えなくなると追いかけない。だが、次第に手と意識が統合されていき、離れていく指やガラガラを自分の意志で追えるようになる。そのあたりは地味で基的な部分だけれども、「身体動作」と「空間」と「思考」の関係は広い領域に広がっている。 たとえば、我々は地元であれば大抵、道端で駅はどこだとか市役所はどこだとか聞かれれば、その場を起点にし

    空間認知の心理学・神経科学的基盤から、漫画の中の空間論まで──『Mind in Motion:身体動作と空間が思考をつくる』 - 基本読書
  • 連日連夜爆破テロが起きるバグダードの日常を、名もなきフランケンシュタインの怪物が駆ける、中東✕SF──『バグダードのフランケンシュタイン』 - 基本読書

    バグダードのフランケンシュタイン 作者:アフマド・サアダーウィー,柳谷 あゆみ発売日: 2020/10/26メディア: 単行この『バグダードのフランケンシュタイン』は、アラビア語からの翻訳、しかもシェリーの『フランケンシュタイン』の流れを汲む物語である。SFと帯には書いてあるものの、実態としてはファンタジィ、幻想小説としての色合いが濃い長篇小説だ。 原書は2013年刊行だが、物語の舞台になっているのは2005年頃のバクダード。この当時のバクダードは荒れに荒れている。イラク戦争を経てサダム・フセイン政権は打倒され暫定政権が立てられたものの、現政府勢力と旧政府勢力の抗争は激化。米軍、スンナ派、シーア派と多数の勢力が入り乱れてカオスになっていて、そこら中で爆破テロが起こり、身内が次々と爆発・四散していく、過酷な状況だったようだ。 書は、そんな悪夢的なバグダードで日々を暮らさざるを得ない無数の

    連日連夜爆破テロが起きるバグダードの日常を、名もなきフランケンシュタインの怪物が駆ける、中東✕SF──『バグダードのフランケンシュタイン』 - 基本読書
  • 予知能力を持った一人の女性の人生を2043年まで描きあげた『クラウド・アトラス』著者による幻想文学──『ボーン・クロックス』 - 基本読書

    ボーン・クロックス 作者:デイヴィッド ミッチェル発売日: 2020/08/20メディア: Kindle版この『ボーン・クロックス』は、19世紀から第二次世界大戦前、1970年代に現代ロンドンと幅広い年代&場所&職業の人間を通して一枚の複雑な絵を描きあげた『クラウド・アトラス』で知られるデイヴィッド・ミッチェルの6作目の小説である。これまでの作品と同じく、複数の時代や特殊能力を持つ人間を語り手に据えながら、パズルが組み上がっていくように大きな世界を築き上げてみせる、壮大な幻想文学だ。 最初の舞台になるのは1984年、イギリスのケント州で暮らす当時15歳のホリー・サイクスだ。親に年上の彼氏との交際に反対されたことから思春期らしい反抗性で家出を決意。その直後信じていた恋人に浮気が発覚して裏切られ、親を少し懲らしめてやるためにも、頼れる人がいない中数日間なんとか一人で生きていこうと四苦八苦するの

    予知能力を持った一人の女性の人生を2043年まで描きあげた『クラウド・アトラス』著者による幻想文学──『ボーン・クロックス』 - 基本読書