1980年代の文学を考えようと思ったのは、90年代から現在に至る文学の有様の一端を垣間見たいという思いからである。これはいずれ90年――95年? 00年?――代文学史論に引き継がれるものである。今回(および次回)はその前史として、庄司薫(1937年生)を取り上げる*1。 彼は1958年の東大在学時に『喪失』という作品でデビューを果たしたが(そのときは本名「福田章二」名義)、それから約10年にわたる謎の休筆期間をあけてのち、1969年に『赤頭巾ちゃん気をつけて』で芥川賞を受賞、がぜん注目を浴びることになった。タイトルから感じ取れるイメージからしても明らかな通り、わりあい古典的で硬質な文体にのっとったデビュー作に比して、「ブロークンな口語体」「饒舌体」といわれた69年作は*2、しばしばJ・D・サリンジャーの野崎孝訳『ライ麦畑でつかまえて』(サリンジャー1951、野崎訳1964)の文体との類似点
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