従兄 萩原栄次氏に捧ぐ 序 萩原君。 何と云つても私は君を愛する。さうして室生君を。それは何と云つても素直な優しい愛だ。いつまでもそれは永続するもので、いつでも同じ温かさを保つてゆかれる愛だ。此の三人の生命を通じ、縦(よ)しそこにそれぞれ天稟の相違はあつても、何と云つてもおのづからひとつ流の交感がある。私は君達を思ふ時、いつでも同じ泉の底から更に新らしく湧き出してくる水の清(すず)しさを感ずる。限りなき親しさと驚きの眼を以て私は君達のよろこびとかなしみとを理会する。さうして以心伝心に同じ哀憐の情が三人の上に益々深められてゆくのを感ずる。それは互の胸の奥底に直接に互の手を触れ得るたつた一つの尊いものである。 私は君をよく知つてゐる。さうして室生君を。さうして君達の詩とその詩の生ひたちとをよく知つてゐる。『朱欒』のむかしから親しく君達は私に君達の心を開いて呉れた。いい意味に於て其後もわれわれの
[#ページの左右中央] 遙に満洲なる森鴎外氏に此の書を献ず [#改ページ] [#ページの左右中央] 大寺の香の煙はほそくとも、空にのぼりて あまぐもとなる、あまぐもとなる。 獅子舞歌 [#改丁] 巻中収むる処の詩五十七章、詩家二十九人、伊太利亜(イタリア)に三人、英吉利(イギリス)に四人、独逸(ドイツ)に七人、プロヴァンスに一人、而(しか)して仏蘭西(フランス)には十四人の多きに達し、曩(さき)の高踏派と今の象徴派とに属する者その大部を占む。 高踏派の壮麗体を訳すに当りて、多く所謂(いはゆる)七五調を基としたる詩形を用ゐ、象徴派の幽婉(ゆうえん)体を翻(ほん)するに多少の変格を敢(あへ)てしたるは、その各(おのおの)の原調に適合せしめむが為(ため)なり。 詩に象徴を用ゐること、必らずしも近代の創意にあらず、これ或は山岳と共に旧(ふる)きものならむ。然れどもこれを作詩の中心とし本義として故(
「牧羊神」には、以下の原著作者による詩が収録されている。 【作品中の人名表記】 生没年月日 ウィキペディアにおける表記 【トリスタン・コルビエェル】 1845-07-18~1875-03-01 Tristan Corbière 【ジュル・ラフォルグ】 1860-08-16~1887-08-20 ジュール・ラフォルグ 【モリス・マアテルリンク】 1862-08-29~1949-05-06 モーリス・メーテルリンク 【エミイル・ルハアレン】 1855-03-21~1916-11-27 エミール・ヴェルハーレン 【フェルナン・グレエグ】 1873-10-14~1960-01-05 Fernand Gregh 【ポオル・フォオル】 1872-02-01~1960-04-20 Paul Fort 【ギイ・シャルル・クロオ】 1842-10-01~1888-08-09 Charles Cros
藍色の蟇 森の宝庫の寝間(ねま)に 藍色の蟇は黄色い息をはいて 陰湿の暗い暖炉のなかにひとつの絵模様をかく。 太陽の隠し子のやうにひよわの少年は 美しい葡萄のやうな眼をもつて、 行くよ、行くよ、いさましげに、 空想の猟人(かりうど)はやはらかいカンガルウの編靴(あみぐつ)に。 陶器の鴉 陶器製のあをい鴉(からす)、 なめらかな母韻をつつんでおそひくるあをがらす、 うまれたままの暖かさでお前はよろよろする。 嘴(くちばし)の大きい、眼のおほきい、わるだくみのありさうな青鴉(あをがらす)、 この日和のしづかさを食べろ。 しなびた船 海がある、 お前の手のひらの海がある。 苺(いちご)の実の汁を吸ひながら、 わたしはよろける。 わたしはお前の手のなかへ捲きこまれる。 逼塞(ひつそく)した息はお腹(なか)の上へ墓標(はかじるし)をたてようとする。 灰色の謀叛よ、お前の魂を火皿(ほざら)の心(しん)
クラリモンド LA MORTE AMOUREUSE テオフィル・ゴーチエ Theophile Gautier 芥川龍之介訳 兄弟、君はわしが恋をした事があるかと云ふのだね、それはある。が、わしの話は、妙な怖しい話で、わしもとつて六十六になるが、今でさへ成る可く、其記憶の灰を掻き廻さないやうにしてゐるのだ。君には、わしは何一つ分隔(わけへだ)てをしないが、話が話だけに、わしより経験の浅い人に話しをするのは、実はどうかとも思つてゐる。何しろわしの話の顛末(いきさつ)は、余り不思議なので、わしが其事件に現在関係してゐたとは自分ながらわしにも殆ど信じる事が出来ぬ。わしは三年以上、最も不可思議な、そして、最も奇怪な幻惑の犠牲になつてゐたのである。 わしはみじめな田舎の僧侶をしてゐたが、毎夜、夢には――わしはそれが悉く夢ならむ事を祈つてゐるが――最も五慾に染んだ、呪ふ可き生活を、云はゞサルダナパルスの
公開中の作品 愛妻家の一例 (新字旧仮名、作品ID:44537) 『赤鬼』の作者阪中正夫君 (新字旧仮名、作品ID:44532) アカデミイの書取 (新字旧仮名、作品ID:44567) 「明るい文学」について (新字旧仮名、作品ID:44417) 空地利用 (新字旧仮名、作品ID:44700) 秋の雲 (新字旧仮名、作品ID:43860) 秋の対話 (新字旧仮名、作品ID:44782) 悪態の心理 (新字旧仮名、作品ID:43858) 芥川賞(第十八回)選評 (新字旧仮名、作品ID:44715) 芥川賞(第二十回)選評 (新字旧仮名、作品ID:44719) 浅間山 (新字旧仮名、作品ID:46862) 「浅間山」の序に代へて (新字旧仮名、作品ID:44871) 『跫音』の序にかへて (新字旧仮名、作品ID:44757) 明日の劇壇へ (新字旧仮名、作品ID:44595) 明日は天気(二場
最終更新日 2024.10.23 新規公開作品は、表の上のほうに追加されていきます。 公開から1週間以内の作品は、「公開日」が赤で表示されています。
岩手県花巻に生まれる。盛岡高等農林農学科に在学中に日蓮宗を信仰するようになる。稗貫農学校の教諭をしながら、詩や童話を書いた。「春と修羅」は生前刊行された唯一の詩集。農民の暮らしを知るようになって、農学校を退職し、自らも開墾生活をしつつ羅須地人協会を設立し、稲作指導をしたり、農民芸術の必要を説いた。 「宮沢賢治」 公開中の作品 〔青びかる天弧のはてに〕 (新字旧仮名、作品ID:53398) 青柳教諭を送る (新字旧仮名、作品ID:53352) 秋田街道 (新字旧仮名、作品ID:4464) 〔あくたうかべる朝の水〕 (新字旧仮名、作品ID:53437) あけがた (新字旧仮名、作品ID:48198) 朝に就ての童話的構図 (新字旧仮名、作品ID:43041) 〔雨ニモマケズ〕 (新字旧仮名、作品ID:45630) ありときのこ (新字新仮名、作品ID:2657) 或る農学生の日誌 (新字新仮名
群馬県前橋市生まれの詩人。口語体の自由詩にとぎすまされた感覚的表現をもちこんで、新しい詩風を確立した。代表作に詩集『月に吠える』、『青猫』、短編小説『猫町』など。 「萩原朔太郎」 公開中の作品 愛の詩集 01 孝子実伝(新字旧仮名、作品ID:56575) 愛の詩集 04 愛の詩集の終りに(新字旧仮名、作品ID:56578) 青いゆき (旧字旧仮名、作品ID:53611) 青猫 (旧字旧仮名、作品ID:1768) 秋 (旧字旧仮名、作品ID:53552) 秋と漫歩 (新字新仮名、作品ID:1772) 秋の日 (旧字旧仮名、作品ID:53549) 芥川君との交際について (旧字旧仮名、作品ID:59326) 芥川竜之介の死 (旧字旧仮名、作品ID:59327) 芥川竜之介の追憶 (旧字旧仮名、作品ID:59978) 足利尊氏 (旧字旧仮名、作品ID:60154) 雨の降る日 (兄のうたへる)(
詩人。17歳頃から詩作を始め、詩人・高橋新吉の作品の影響を受けて一時ダダに傾倒。その後は、フランス象徴詩の影響下に詩作を続けた。37年10月22日、結核性脳膜炎がもとで急死。 「中原中也」 公開中の作品 Me Voilà ―― à Cobayashi(新字旧仮名、作品ID:50255) 秋の日曜 (新字旧仮名、作品ID:51308) (あなたが生れたその日に) (新字旧仮名、作品ID:55909) 在りし日の歌 亡き児文也の霊に捧ぐ(新字旧仮名、作品ID:219) アンドレ・ジイド管見 (新字旧仮名、作品ID:50258) 医者と赤ン坊 (新字旧仮名、作品ID:50238) いちじくの葉 (新字旧仮名、作品ID:51309) いちぢくの葉 〔夏の午前よ〕(新字旧仮名、作品ID:51891) 一度 (新字旧仮名、作品ID:55892) 海の詩 ――人と海――(新字旧仮名、作品ID:55706
上田敏訳詩集 遙に満洲なる森鴎外氏に此の書を献ず 大寺の香の煙はほそくとも、空にのぼりて あまぐもとなる、あまぐもとなる。 獅子舞歌 海潮音 序 巻中収むる処の詩五十七章、詩家二十九人、伊太利亜(イタリア)に三人、英吉利(イギリス)に四人、独逸(ドイツ)に七人、プロヴァンスに一人、而(しか)して仏蘭西(フランス)には十四人の多きに達し、曩(さき)の高踏派と今の象徴派とに属する者その大部を占む。 高踏派の壮麗体を訳すに当りて、多く所謂(いはゆる)七五調を基としたる詩形を用ゐ、象徴派の幽婉(ゆうえん)体を翻(ほん)するに多少の変格を敢(あへ)てしたるは、その各(おのおの)の原調に適合せしめむが為(ため)なり。 詩に象徴を用ゐること、必らずしも近代の創意にあらず、これ或は山岳と共に旧(ふる)きものならむ。然れどもこれを作詩の中心とし本義として故(ことさ)らに標榜(ひようぼう)する処
本書を書き出してから、自分は寝食を忘れて兼行し、三カ月にして脱稿した。しかしこの思想をまとめる為には、それよりもずっと永い間、殆(ほとん)ど約十年間を要した。健脳な読者の中には、ずっと昔、自分と室生犀星(むろうさいせい)等が結束した詩の雑誌「感情」の予告に於(おい)て、本書の近刊広告が出ていたことを知ってるだろう。実にその頃からして、自分はこの本を書き出したのだ。しかも中途にして思考が蹉跌(さてつ)し、前に進むことができなくなった。なぜならそこには、どうしても認識の解明し得ない、困難の岩が出て来たから。 いかに永い間、自分はこの思考を持てあまし、荷物の重圧に苦しんでいたことだろう。考えれば考える程、書けば書くほど、後から後からと厄介な問題が起ってきた。折角一つの岩を切りぬいても、すぐまた次に、別の新しい岩が出て来て、思考の前進を障害した。すくなくとも過去に於て、自分は二千枚近くの原稿を書き
ここでは、青空文庫で作業対象となる、著作権の消滅した作家名の一部を、簡易的な一覧にしています。 このリストになければ、その作家の著作権はまだ切れていないおそれがありますが、この資料はあくまで目安であって、情報を網羅しているわけでも、完璧なものでもありません。このリストにない作家でも、青空文庫の「登録全作家インデックス」に記載されている場合があります。また情報の確認には、各種事典や Web NDL Authorities のほか、Wikipedia なども参照してください。 また、作業したい作品が着手されていないか、「作業中の作品」も必ず確認してください。 【あ】 会津八一(1881年8月1日~1956年11月21日) 饗庭篁村 あえば・こうそん(1855年8月15日~1922年6月20日) 青木月斗 あおき・げっと(1879年11月20日~1949年3月17日) 青木健作(1883年~19
更に私は新しい原始生活に向うために、一切の書籍、家具、負債その他の整理を終ったが、最後に、売却することの能(あた)わぬ一個のブロンズ製の胸像の始末に迷った。――諸君は、二年程前の秋の日本美術院展覧会で、同人経川槇雄作の木彫「」「牛」「木兎(みみずく)」等の作品と竝んで「マキノ氏像」なるブロンズの等身胸像を観覧なされたであろう。名品として識者の好評を博した逸作である。 いろいろと私はその始末に就(つ)いて思案したが、結局龍巻(たつまき)村の藤屋氏の許(もと)に運んで保存を乞(こ)うより他は道はなかった。兼々(かねがね)藤屋氏は経川の労作「マキノ氏像」のために記念の宴を張りたい意向を持っていたが、私の転々生活と共にその作品も持回わられていたので、そのままになっていたところであるから私の決心ひとつで折好(おりよ)き機会にもなるのであった。 私は特別に頑丈な大型の登山袋にそれを収めて、太い杖を突き
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