筆者の初のSF短編集。2010年代各所で発表された作品8編*1と書き下ろし1編を収録している。 あとがきで作者自身が述べているが、前半と後半とで作品の雰囲気というか作風がずいぶんと違っている。前半の5編は設定やプロットがちゃんとあるが、後半4編は、奇想というかナンセンスというかそういうものになっていく(うち1編は話の内容そのものよりもタイポグラフィが主眼になっているし)。 正直、前半の方が好きだし、後半はよくわからんのだが、しかし「生首」はわからんなりに結構面白かったりする。表題作である「あなたは月面に倒れている」なんかも全体的にはなんだかよく分からないのだけど、個別の文章は面白いし。 前半で収録されている作品は、スパムが歩いてやってくる「二本の足で」だったり、アトミックパンクの「トーキョーを食べて育った」、猫としりとりをする「おうち」だったり、その惹句やタイトルがわりとコミカルで軽い感じ
ヒューゴー賞、ローカス賞、ネビュラ賞の三冠を受賞した表題作を含むSF短編集 作者のバトラーは、1947年生まれで2006年に亡くなっており、本書も原著は1995年に刊行されている。長編が一つ邦訳されているが、日本ではほとんど紹介されてこなかった作家だという。 ごりごりの(?)SF作家だし、本短編集も基本的にSFだが、比較的SF色の薄い作品もある。また、翻訳者もSF畑の人ではない。アフリカ系アメリカ人女性のSF作家であり、ある種の文学的評価というのもあるのかもしれない。 なお、話ごとに筆者自身の短いあとがきがついている 「血を分けた子ども」と「恩赦」が特に面白かった。 どちらも、異星人に支配されてしまった地球人を描いているのだけれど、そこでの異星人と地球人との関係は、単純に敵対や隷属ではなくて、何らかの信頼や愛情があり、共存・共生の可能性が模索されていて、逆に、地球人同士の方に不信があったり
三体 (ハヤカワ文庫SF) 作者:劉 慈欣早川書房Amazon『三体』とは! 中国の作家劉慈欣によって書かれたSF三部作の第一部目にして、中国国内だけで三部作累計2100万部を刊行し、さらに日本でも人気のケン・リュウによる翻訳によってアメリカの歴史あるヒューゴー賞を受賞した傑作である。ヒューゴー賞受賞の何が凄いかと言うと、翻訳書としてははじめてのの受賞になるのだ。 それぐらい作品の内容が圧倒していたともいえる。で、あまりSFとは縁のなさそうなオバマやザッカーバーグも絶賛していたりとか、アニメ化が決定したりとか話題は尽きないんだけれども、とにもかくにもこれだけは覚えて帰ってもらいたいのは、この『三体』は、話題先行の内容はまあおもしろいね、いうほどじゃないけど的な軟弱な態度で読み終わる作品ではなく、その肥大化しきっているともいえる話題性に劣らない、圧倒的なおもしろさのある、純粋におもしろいSF
“Seveneves” 2015 Neal Stephenson 原書は全一冊だけど、邦訳は第1部/第2部/第3部のそれぞれに分冊して全三巻での刊行。合計で1,000ページ以上に達する。 第2部と第3部の変化は巨大。第1部と第2部の間ではそれほど変化はなく、漸進的に移り変わっていく感じ。第2部の後半から急加速的に転落していき、ひとつの極限点に達してそのまま第3部への激変につながっている。 あらすじをひとことで言えば、人類規模でのサバイバル。 あるとき何らかの宇宙的事象によって月が破壊されてしまうところから物語が始まる。物理計算の結果、月は衝突と細分化を繰り返し、やがて無数の隕石となって地球に降り注ぐことが判明。この隕石雨で地球上の生物は絶滅すると予測されたため、既設の宇宙ステーションを中核として軌道上に集住施設を構築し、限られた人類だけでも生き延びさせよう、という全人類合同のプロジェクトが
「タイムトラベル」といえばこれを読んでいる多くの人は「あーはいはい」とその意味するところをすぐに理解してくれるだろう。空間のように時間を移動することができて、未来に行ったり過去に行ったりできるアレのことだ。もちろんタイムトラベル事象は我々の生活の身近なところにあるものではないけれども、邦画でも洋画でも、漫画でも小説でも「タイムトラベル」が出てくるものはいくらでもあるから、なかなかこの概念を知らぬままに生きるのも難しい。 しかし、この「タイムトラベル」という概念はいつ頃生まれたのだろうか。あまりにもよく知っている、よく(フィクションの中で)用いられているものだから、神話の時代からあるだろうと思ってしまうが、実はその起源はごく浅いと著者はいう。 (……)古代人には、永遠の命、生まれ変わり、死者の国といった概念はあったが、時間旅行という概念はなかった。現代人には馴染み深い「タイムマシン」など、ま
複数のプレイヤーが1つの世界に参加する形で進むオンラインゲームを「MMORPG」と呼ぶ。仮想空間内のMMORPGの世界で繰り広げられる登場人物たちと、そのゲーム世界をめぐる物語を描いた作品群『ソードアート・オンライン』(以下、『SAO』)が、世界中で人気を博している。原作ライトノベルは現在までに全世界でシリーズ累計2000万部を発行、テレビアニメから発展した映画『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』は全世界で興行収入43億円を超えている。 MMORPGを題材にした作品が無数にある中で、『SAO』がここまで人気を博している理由の1つは、VR・AR・AIなどの時代を先取りした「テクノロジー」を真正面から取り上げている点にある。原作者の川原 礫さんにエンターテインメントと技術の関係について詳しくお話を伺った。 ※注意:インタビューの性質上、『SAO』シリーズの物語の核心
現実は変えられないという「現実主義」に抗するためにフィクションは意味をもち得るか、SFアニメで考える骨太フィクション論。 科学、技術の急速な発展をうけて、現実主義者は、フィクションは意味がないしくだらない、あるいは、無責任で害悪でさえあるという。それに対し、そのような態度こそがわたしたちの現実を堅く貧しくしているのだと反論することはできるのだろうか。名作SFアニメを題材に、フィクション、現実、技術について、深く検討する。本連載を大幅修正加筆し、2018年12月末刊行。 【ネット書店で見る】 古谷利裕 著 『虚構世界はなぜ必要か? SFアニメ「超」考察』 四六版判上製・304頁 本体価格2600円(税込2808円) ISBN:978-4-326-85196-6 →[書誌情報] アンドロイドの「特別な一日」 2002年に公開されたスティーブン・スピルバーグ監督の『A.I.』という映画は、人を愛
顔の美醜が認識できない未来社会…「メッセージ」原作者&脚本家が再タッグ 2017年8月1日 短編小説「顔の美醜について」をドラマ化 Photo by Vivien Killilea/Getty Images for Palm Springs International Film Festival ドゥニ・ビルヌーブ監督、エイミー・アダムス主演のSF映画「メッセージ」の原作者テッド・チャン氏と、脚本家エリック・ハイセラーのコンビが新作テレビドラマを準備していることがわかった。 米Deadlineによれば、大ヒットドラマ「ウォーキング・デッド」の全米放送を手がけるAMCが現在、「Liking What You See(原題)」という新番組の企画開発を行っているという。チャン氏の短編小説「顔の美醜について――ドキュメンタリー」のテレビドラマ化で、「メッセージ」の脚色を手がけたハイセラーが企画・
How to watch Polaris Dawn astronauts attempt the first commercial spacewalk
正解するマド (ハヤカワ文庫JA) 作者: 乙野四方字,東映アニメーション,野?まど出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2017/07/06メディア: 文庫この商品を含むブログを見るTVアニメ作品『正解するカド』が、先日賛否両論を巻き起こしながら終了した。否定的な意見にうなずきながらも僕は毎週楽しみに観ていたけれども、最終話には大いに笑かしてもらって、とにかく楽しい作品であったと思う。最後の大ネタはあまりにもバカバカしく「もうなんでもええわい」とおおらかになってしまうんだよね。 と、そんなわけで本書『正解するマド』はそのノベライズにして、スピンアウト作品である。アニメ作品のノベライズといえば、アニメの内容をそのままなぞるものからまったく別の話まで様々だが、本書は"まったく別の話"にあたる。しかも凄いのは、アニメ脚本との密接なリンクを構築しつつ、野崎まど作品への強烈なオマージュであり、さら
いなたくんへ ジョン・フラムなる神様を初めて知った。南国の島国バヌアツで信仰され、毎年2月15日の「ジョン・フラムの日」には祭典と儀式が行われる。儀式とは例えば米軍の行進・訓練の再現だ。これはジョン・フラムの正体が第2次大戦時の米兵であることによる。当時米軍はバヌアツに30万の将兵を派遣し、島に多くの物資をもたらした。バヌアツの人々はこれを成功体験と捉え、米兵を神格化し、当時の出来事を儀式化することで再び同じ豊かさが訪れることを願っている。 米国旗を掲げ、竹製の銃を抱えて行進するバヌアツの人々(Youtube) 外の世界からもたらされた積荷(カーゴ)の再来を願い、積荷をもたらした白人の振る舞いをまねる儀式は積荷信仰(カーゴ・カルト)と呼ばれる。「積荷信仰」をキーワードとして、南太平洋に出現した統一国家を舞台に人類の進化を描いたのが柴田勝家著『ニルヤの島』(2014)だ。第2回ハヤカワSFコ
人類は不老不死になれるのか 絶対に死にたくない!不老不死になりたい!という思想の持ち主であるライターのセブ山が、不老不死の手がかりを探すべく「ベニクラゲ」の研究者にお話をうかがってきました。 死なずに若返るというベニクラゲによって、人類は不老不死になることができるのでしょうか? こんにちは、ライターのセブ山です。 みなさんは、不老不死になりたいと願ったことはありますか? 僕は「老い」と「死」が何よりも怖いので、常々、不老不死になりたいと思っています。 いや冗談ではなく、本気で思っています。 しかしそういう話をすると、『いや、やがて人は皆死んでしまうから美しいんだよ』とか、『死にたくても死ねないのは結構ツライと思うよ』と言ってくる人らがどこからともなく沸いてきます。 ふざけんなって。できるだけ長く生きたいというのが人間の本能なはずでしょ? 『死にたくても死ねない』と苦悩するとか、話が飛躍しす
■ 「けものフレンズ」が終わっちゃった 今期アニメ最大の話題作「けものフレンズ」が最終回を迎えた。アニメはもっぱらニコ動でみる勢だが、さすがに最終回は地上波でみないとTwitterでネタバレを食らうのは必至だったから、録画して一昨日の朝には観ていた。が、いちおう配信が終わった今日の日記に書く。もうネタバレ書いてもいいだろう。 ニコ動では2話以降有料ということだったから「面白そうならあとから見る」というクラスに置いていたものの、過去にそういう作品をあとから追いかける羽目になったためしはなかった。だから途中から界隈が急に盛り上がってきたときにはびっくりしたけど、すぐに「入園料」を払って追いついた。こんなに次回が楽しみなアニメは「シンデレラガールズ」以来だったなぁ。 多面的に楽しめる作品だったけど、自分が惹かれたのはやっぱり練りに練られたストーリーかなぁ。設定はけっこう穴だらけなのにあまり気にな
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