紀元前、文明の都アテネに於いて。 ある彫刻家が裁判所に召喚された。 容疑は、我が子に対する過度の折檻、虐待である。 当日法廷に姿を見せた彫刻家は、妙なものを携えていた。 石像である。 彼自身の新作で、少年が苦悶する有り様を表現したものだった。 その身振りといい、表情といい、何処をとっても真に迫らざるものはなく、今にも魂切る叫びが聴こえるようで、あまりの出来に百戦錬磨の法官たちも息を呑み、皮膚を粟立てずにはいられなかった。 彫刻家、反応をとっくり確かめてから徐に唇を動かして、 「私が息子を虐待したのは、偏にこれを完成させんが為でした」 悪びれもせず、そんな陳述を敢えてした。 開き直りといっていい。アテネの司法は、やがてこの男に無罪判決を与えている。 (『アサシンクリード オデッセイ』より、大理石工房) こういう具合いの、つまりはよりよき芸術のため、悪魔に魂を売り飛ばしでもしたかのような徒輩の
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