芝浦工業大学名誉教授の大倉典子さんは、世界で初めて「かわいい」を研究対象にとり上げた工学者である。東京大学大学院の工学系研究科修士課程を修了して1979年に日立製作所の中央研究所に就職した。そこで進められていた植物工場の研究に興味を持ったからだ。入社試験は高卒向けを受けた。男女雇用機会均等法が1986年に施行される前は、民間企業の多くが大卒女子を募集していなかった。子どもの預け先が見つからなくて5年で退職、それから紆余曲折を経て芝浦工大教授になったのは45歳のとき。感性工学者として確かな歩みを始めたのは50歳を過ぎてからだった。それにしても、「かわいい工学」とは何なのか。そんなユニークな学問をなぜ始めたのだろう。(聞き手・構成/科学ジャーナリスト・高橋真理子) 【写真】「かわいい」部屋でパチリ。確かに、なんだかかわいい * * * ――「かわいい工学」とは何でしょうか? 21世紀に入って日