■激しい愛憎と情念の世界 ソフトバンク孫正義社長の半生を極貧の生い立ちにまでさかのぼり、血統までをも取材した強烈に面白いノンフィクションだ。 しかし物語としては面白い一方で、本書には強烈な違和感がつきまとう。本書はスタート地点で著者の孫氏への「いかがわしい」「うさんくさい」という感覚が基点とされ、そのうさんくささは例えば、「孫の目指す情報革命」は名もなきひたむきな人々の権威を奪って「人間関係をぎすぎすさせる」「人間は数式通り生きていない」といった、ステレオタイプな反テクノロジー感覚に満ちあふれている。 このような感覚は、シニア層を中心にして今の日本社会のかなりの層の人たちの間で共有されているのだろう。彼らから見れば、新たな時代を作ろうとする孫氏やいま服役中のホリエモンといった人たちは、理解不能な宇宙人にしか見えない。 著者は孫氏のパワーの源泉を、在日の一家の激しい愛憎、アジア的な情念の世界