初めにお断りしておきます。燗をやめて冷酒を飲もうと言いたいわけでは決してございません。だって燗酒、おいしいじゃないですか。酒の温度が上がることで旨味が膨らみキレも良くなる、いいことだらけの飲み方ですもん。 しかし、最近思いませんか。燗の復権は喜ばしいものの、それを通り越して「冷酒冷遇」となってはいまいかと。「香りが閉じる」「旨味が出てこない」「日本酒を冷やすなんてもったいない」。こんな声もチラホラ。それ、本当ですか。日本酒って、本当に冷やしちゃダメなんですか。その答えを聞きたくて、東京・神楽坂「ふしきの」の多田正樹さんを訪ねたのでした。 さっそく、多田さんとご挨拶。手渡された名刺の肩書には、なんと「燗番」と書かれている。凍りつく私に気づいた多田さんが「ボク、お燗しか出さない人だと思われていますが、そんなことありませんよ」とにっこり。「冷たい酒には、燗とは違うおいしさがあるんです」とのこと。