むかしむかし、とにかくたぬきの泥船が一向に進まなかった。しかし当のたぬきは無駄に大きな泥船の甲板の上に立って腕を組み、 「目算、あと二百メーターはいける」とかなんとか言っている。 うさぎをはじめ、きつね、おじいさんおばあさん、そのほか周りで自分の舟をめっちゃこいでいるお馴染みのメンバーは、たぬきの様子を透明なサンバイザー越しに確認すると、ここぞとばかりにたぬきをバカにし始めた。 「舟に泥ォ……? 大人をからかうんじゃないっ」「やーいポンポコリンの味噌っかす」「ぼんくら」 たぬき以外の舟は数人で乗るタイプだったため、あんまり大きい声を出そうとすると揺れた。たぬきにはみんなの声が聞こえているはずだが、なおも胸というかお腹を突き出して、 「おもかじいっぱい!」とか叫んでいる。たぶん一生懸命こぐという意味だと思っているのだ。 「ぼんくら、もう棄権しろよ」「ぼんくら、諦めろよ」 泣きが入ると思われた