「Number.640」(文藝春秋)の日本シリーズ特集記事「初芝清〜笑いと涙の野球人生。」より(文・村瀬秀信)。 【その日は、3日前に引退を表明した、初芝清のセレモニーが試合後に予定されていた。 6回の裏、代打に初芝の名が告げられると、満員のスタンドからは悲鳴にも似た大声援が轟く。「これが現役最後の打席になるかもしれない」。球場全体の視線がゆっくりとグラウンドに現れる背番号6を追いかける。 ソフトバンク三瀬が投じた初球。痛烈な打球が三塁線を襲う。だが、惜しくもファール。 「まだやれるぞ!」「やめないで!」 引退を惜しむ叫び声がスタンドのあちこちから上がった。 3球目――。悲壮な空気が一転、笑いに変わる。バッターボックスの後方、左足にデッドボールを食らった初芝が、円を描くようにピョコタンとグラウンドを跳ねまわっていた。 「やっぱり、アンタはサイコーだよ!」 笑いながら涙を流すファンの姿。それ