大阪の淀屋橋の近くに、適塾がある。緒方洪庵が開いた、蘭学の私塾。福澤諭吉をはじめとする多くのすぐれた門人を輩出し、幕末から明治にかけての日本の発展に重要な貢献があった。 適塾を特徴づけるのは、何と言っても凄まじいまでの猛勉強である。福澤諭吉の『福翁自伝』には、その精励ぶりが書かれている。あるとき、諭吉は調子が悪くなって寝ようとした。ところが、枕が見あたらない。そこで、はっと気付いた。適塾に来て以来、勉強して疲れては床にごろりとなって仮眠をとり、起きてはまた勉強するというありさまだったので、枕を使って寝たことがなかったと。 諭吉をはじめとする当時の塾生が、そこまで猛勉強に駆り立てられたのはなぜか。黒船来航以来の騒然たる世相の中、日本は将来どうなってしまうのかという危機感はあったろう。だからこそ、適塾全体でオランダ語の辞書が一冊しかないという状況の中、それこそサッカー選手がピッチの上を必死にな