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ブックマーク / ojohmbonx.hatenablog.com (21)

  • もののけ関係者による証言 - OjohmbonX

    モロの証言 「お前にサンを救えるか」と私が言うと奴は、 「は? 肩いきなしガッ抱きよせて頭よーしよし撫でりゃ一発っしょ? ああいう甘え慣れてねえ女ってさ。ちょっと優しくするとすーぐ勘違いして一気にデレるんスよ。っしょ?」などと吐かしたのだ。 300年生きてきてこんなことを言う奴など会ったことがない。はじめ唖然として次第に腹が立ってきた。 「黙れ小僧!」、「哀れで醜い、可愛いわが娘だ」と一喝すると 「あっ。だいじょうぶっス。娘さんのこと幸せにする気マジあるんで。共に生きることはできるんで。」 とそのままサンの眠る洞窟に入って行った。エボシでなく奴をい殺すべきだったな。 ヤックルの証言 あの。さいごね。あのね。ご主人さまが「私はタタラ場で暮らそう」ってゆって。あ。もう村にはもどらないんだ、ぼく、もう、あんなに長く長く走ったりしなくていいんだって。ほっとして、でも、ちょっと、さみしいな。って。

    もののけ関係者による証言 - OjohmbonX
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    nuba 2014/10/16
  • ゴールデン・ジャーマニズム - OjohmbonX

    小学生の唇の奥で金歯が光る。お昼休みなのに土砂降りで冗談みたいに外が暗い。教室の蛍光灯の青っぽい光がジャーマンの金歯の表面をねらねら滑ってく。全員ひとことも口きかずに見てる。 ほんのちょっと前までみんな大笑いしてたのに。頭おかしくなるくらい笑ってた。何も知らずに廊下を通りかかったよそのクラスの生徒もつられて笑うくらい笑ってた。急に松坂がブリッジで歩き始めたから。みんなが周りに集まって変なうごき! きもいきもい! 松坂が右へちょこちょこ動くとみんなも右へ、左へ動けばみんなも左へ。女子が松坂のおなかをちょんと押すと、きゃっと叫んで松坂がぺちゃんと背中から落ちる。息できないくらい笑ってた。 いい加減にしろって大声で怒鳴る声して松坂はびっくりして怯えて固まったけど、怒鳴られてたのはジャーマンだった。人垣の奥の方で溝口に腕つかまれてにらまれてた。ゆるく開いた唇のあいだで金歯が光る。溝口が怒鳴って誰も

    ゴールデン・ジャーマニズム - OjohmbonX
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    nuba 2014/04/19
  • ギャル万葉集 - OjohmbonX

    ツイッターで「#ギャル万葉集」のタグ張って、32首まで詠んでみました。このタグで色んな人が詠みだして、物のギャル歌人まで出て。そんな夢見ながら詠んでたんだけど、自分以外に書く人なくて。あきらめてひとまずこれで終わらせて、5千年後に発掘されたい。 ヤバイっしょ。日焼け止めとか関係ない。アタシのココを黒くするカレ。 アタシだけ ブラックホールにのまれても アタシはマジで すべてに感謝 ギャルサーを、抜けても抜けてもそこは闇 ファミレスにいる アタシはひとり こら重力! アタシのヒザをいじめるな! だんだん地球にめりこむアタシ。 よく聞いて。アタシほんとはギャルじゃない。ただの40の美魔女なのよね。 ちぢれ毛を あつめてカレのこと想う。ほんとはぜんぶアタシのインモウ。 地獄でも カレとだったらパラダイス。つけまでアタシ エンマ殺すよ? フジサンとか アタシの中ではただの山。マジでカレシが世界遺

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    nuba 2013/10/26
  • さようならアーティスト - OjohmbonX

    道端に吐かれたゲボ、階段に吐かれたゲボ、駅のホームに吐かれたゲボ、スクロールしていけばいくつもの、色とりどりのゲボの写真が流れていく。そんなブログがあった。何のコメントもプロフィールもなく、それがどこなのか、どんな意図で撮られたのか、いったい誰が撮っているのかもわからなかった。 ブログタイトルは「ゲボ」だった。 インターネットが広く開かれた空間だなどという言説は、まるで正しく、その正しさゆえにまるで無意味なのだ。例えばいつも通る道の脇にふいに空き地ができたとき、人はいったい今までそこに何が建っていたのか思い出せない。民家だったのだろうと思っても、かつての形も特徴も何も思い出せない。衆目にさらされた環境にあっても誰もが見過ごしてしまう。そんな民家に似たブログは世界中にいくらでもあって「ゲボ」もその一つだった。 2004年から開始され、当初月に1枚ほどのペースで写真はアップされていたが、200

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    nuba 2013/10/26
  • 進研ゼミが見てる - OjohmbonX

    算数のテスト中にゆうたろうが「あっ」て言って、うちらみんな一気にゆうたろうの方見た。 「進研ゼミでやったやつだ!」ってゆうたろうが言って、みんなくっくす、くっくす笑った。水谷先生が 「静かにしなさい。」って言ったけど、水谷先生もちょっと笑ってた。ゆうたろうはいつも急に笑わせてくるから。授業がおわって北野さんが水谷先生のとこいって 「先生も笑ってたでしょ。先生も笑ってたでしょ。あたし見たもん。先生も笑ってたでしょ。」って言って、水谷先生も進研ゼミのことは知ってたんだって。 「先生も進研ゼミのこと知ってるらしいよ!」って言いはじめて、みんなが先生のところに集まった。 「ねえなんで先生も知ってるの? 先生大人でしょ? 先生のとこにも進研ゼミのマンガ届くの? 大人にも届くわけ?」みたいなこと北野さんが聞いた。ここは北野さんがさいしょに先生に聞いたから、今は北野さんがリーダーになってる。先生は大人で

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    nuba 2013/08/19
  • ごんにんげん - OjohmbonX

    あたし友だちとかいないじゃん? だから一人でシャズナのトイレにいるわけ。このへんのゲーセンで一番おおきいのはシャズナだから。トイレもいい感じだし。それに隣のマックにそのままつながってるから便利だし。 でもシャズナにいるとヤマ高の女がいっつも大量にいてムカつく。中山高校ってはっきしゆって偏差値ひくい。あたしは偏差値のことカンペキわかるけど、あいつら偏差値とかも一つもわかんないと思う。だからバカのヤマ高の女たちはいっつも群れてて、すっごくウザい。シャズナがヤマ高の最寄り駅の近くにあるからあいつら溜まってる。 それであたし、ヤマ高の女に嫌がらせとかしてるわけ。積極的にしてる。タイコのゲームしてるやつからバチ盗んだり、UFOキャッチャーでとったキティ奪って首もいだり、エアホッケーのパック取り上げて口につっこんでやったり。そうゆうことしてる。だって、あたし友だちとかいらないじゃん? いつも群れてるの

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    nuba 2013/05/12
  • ゲド戦記 - OjohmbonX

    フジテレビに入社したこの女子アナ、外道であったゆえゲドパンと呼ばれている。ゲドパンは入社早々カトパンを腹パンして外道ぶりをまざまざと見せ付けた。 「生意気なのよね。」 とんでもないことである。カトパンはただ、給湯器に鼻くそを入れていたゲドパンを注意しただけなのだ。自分の鼻くそであればまだしも、どこの馬の骨ともわからぬ鼻くそを大量に投入していたゲドパンを、ただ注意しただけなのだ。しかしゲドパンはカトパンの目すら見ずに振りむきざま、腹にグーパンを決めたのであった。 (最近の若い子は厄介ねって、思うようになるなんて私もベテランなのかしら) カトパンは激痛に耐えながらホンマでっか!?TVの収録に向かった。今の一撃で妊娠できない身体になっていた。 ゲドパンは生田アナを犯して孕み、1ヵ月後には妊娠検査薬を見せて生田の正妊娠中の秋元アナを気絶させ、返す刀でカトパンには 「あたし妊娠したんですよ。カト

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  • ニプレス リプレイ - OjohmbonX

    ヒートテックのニプレスをつければ乳首が燃えるように熱い。連動して勃起しているが、ダウンジャケットの裾で隠れており問題はない。だが電車の中で大声であえぎ、胸を揉みしだいているのは問題だ。なのに俺の両隣が席を立っただけで、乗客の誰も気にしないフリをし続けているのはやっぱ、日ってすげえ。ユニクロもすげえ。 土曜日の朝は人が少ない。だから揉んでいる。平日に揉んだらただの変態だ。車内に同じ高校のやつは部活組が数人いるだけだ。携帯を俺に向けてムービーか何かを撮ろうとしたやつがいた。殺す気合で睨みつけて仕舞わせた。ついでに全員睨みつけておいたからもう俺に目を向ける奴はいない。俺は安心して目を閉じ、揉みに専念した。 隣に誰か座る感触を感じて、俺は電車の走行音をかき消すくらい大きく吼え、ちぎれるほど激しく胸を揉みながら、目を見開いて隣に向き直った。 「主将。お早うございます。」 脅えたような表情を見せなが

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    nuba 2013/02/16
  • オヌメサンバ - OjohmbonX

    産婆のオヌメはこのあたりの村の女達から恐れられていた。オヌメは取り上げたばかりの赤ん坊を出てきた穴にまた出し入れするからである。女達にとって地獄の痛みである。しかしオヌメの取り上げた子供達は一人残らず丈夫に育ったから誰も文句は言わないのである。痛みはその場限りのことで忘れて、目の前の子供達はいつまでも元気でいるから母親達はかえってオヌメに感謝するのである。恐れながら感謝するのである。 産気づいた娘のオノを見て母親のオサダが叫ぶ。 「ホラァッ、オヌメ婆を呼べェ。」 「おっか、おっか、オヌメ婆は勘弁して。おっかが取り上げ!」 「馬鹿ァ。てめえもオヌメ婆に取り上げてもらったぁ。てめえのガキもオヌメ婆に取り上げてもらうに決まってる。」 オヌメは隣村から山を二つ越えてやってくる。もう六十を越えているのだが猿みたいに早いのである。いつの間にかもういる。 オヌメがオノの腹をなでる。すると呻き通しだったオ

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    nuba 2012/10/03
  • 絶望的な幸福が始まる - OjohmbonX

    妖怪の娘 八十歳はぜったい過ぎてる。なのに妊娠してる。しかも足がぐちゃぐちゃ。どーなってるの? 優先席の権化みたいなおばあさんがこっちに来る。優先席に座ってるぼくの方へ! おばあさんがぼくの前に立った。全身に大量の「おなかに赤ちゃんがいます」のキーホルダーをつけてる。思わず見上げると、おばあさんはぼくをガン見してた。白目をむいてるけどぜったいぼくを見てる。そしてガクガク震えてる。 席を譲った方がいいのかな? でもこう見えて実は元気かもしれない。いいんですいいんですって席を譲らせてくれなかったら恥ずかしいじゃん。老人扱いするなって怒られたら恥ずかしいじゃん。 「せ、席を、譲っていただけないでしょうか」 ほとんどヤスリで木を削るみたいな音だったから聞き取りづらかったけど、おばあさんがぼくにそう言った。それでほっとして、公式に席を譲ろうと思って立とうとしたら、いきなりとなりのサラリーマンがぼくの

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    nuba 2012/06/08
    "わかめパウダーと呼んで妹のフケを収集していた磯野カツオであったが、大人たちはそれを黙認した。"出だしでやられた!!!
  • 善き羊飼いの子は羊 - OjohmbonX

    「ハーイ」 かん高い声を聞いて甚六は、ヘーベルハウスを、意識しないまま心の底で一瞬期待しながら振り返るとしかしそれは、イクラちゃんだった。甚六にはまるで分からない。なぜ、いつから、自分の部屋にイクラちゃんがいるのか。 「チャーン」 さらに振り返ると別のイクラちゃんがいた。甚六にはますます分からない。なぜ二人もいるのか。 「ハーイ」「チャーン」「ハーイ」「ハーイ」「チャーン」 ころんころんとイクラちゃんは増えていく。甚六は分からない。どこからイクラちゃんが出てくるのか。なぜこんなにもいるのか。けれどともかく、イクラちゃんはいる。際限なく増えてゆく。増えて、この二階の六畳間はイクラの海になった。しかし考えてみればイクラなんだもの、うじゃうじゃいるのが正しいような気も甚六にはしてくるのだった。 豊饒の海は甚六の膝丈ほどの深さで蠢いている。明るい栗色の細い髪が美しく海面を覆って揺らめいている。 ば

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    nuba 2012/04/21
  • 失われた感情を求めて - OjohmbonX

    女子高生・島田わぴょしはマックのバイト。感情は捨ててきたから笑顔はない。スマイル \0? ううん、\∞。 事故やトラウマからじゃない。ただ、中学二年のときにちょっとミステリアスな女を演じてたら、当に感情を忘れてしまっただけ。ついでに友だちも置いてきた。 わぴょしは感情と友達を(あわよくば追加で彼氏も)取り戻すためマクドナルドの門を叩いた。今では立派な店員だ。 「持ち帰りで」 「そんなの知らないです」 「ビッグマックセットひとつ」 「そんなのないです」 「ないわけないだろ」 「じゃああります。2千円です」 「ふざけんな」 「2千円札でいいです」 もう感情がないとかいう問題じゃないけど、ミステリアスな女の設定は続けていたのでしょうがない。ミステリアスかどうかもよくわからない。 でもわぴょしを責めるのは間違ってる。彼女はすごく努力してる。その証拠に今の見た? トレイに敷く紙あるじゃん? 普通は

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    nuba 2012/04/19
  • つつきつつかれ - OjohmbonX

    白刃をだらりと提げた噂の辻斬りを面前にしてもなお平内は、自身が標的とは露ほども考えなかった。名のある遣い手を選ぶと噂の辻斬りが、まるで剣に疎い自分に用のあるはずもないと信じきっていた。 「抜け」と辻斬りに言われるまま訝しげに刀を抜くに及んでようやく、自分が斬られようとしていることと、その理由に思い至った。 平内は今世話になっている家へ、死んだ親の残した金で買った免許皆伝を提げ、 「私から剣術を奪えば何も残りますまい」などと嘯いて転がり込んだ。ずいぶん剣術に熱心な家主が子弟専属の剣術家を探していると耳にしたのだった。住み込んで平内はただちに馬脚を現した。 「貴様、剣などさっぱりではないか」と詰る家主にしかし 「さようで」と笑っていたら、何となく呆れて許されたのだった。そのや子供たちからも気に入られ、それから家事や雑務や子供の世話をしてほとんど下男のようにその家に留まっている。およそ二百五十

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    nuba 2012/04/14
  • 愛、この永遠の青 - OjohmbonX

    君は当にミイちゃんを愛しているのだろうか。 それはひょっとして君が、青狸などではなく型ロボットなのだというアイデンティティを、内外に誇示するための手段に過ぎないのではないだろうか。のミイちゃんに欲情する私はだと証し立てるための。君のひみつ道具で賄えはしない欲望を満たすための道具に、彼女を知らず知らず貶めてはいないだろうか。 こんなことを言えばきっと君は、(いったいどういうメカニズムなのかな)顔を真っ赤にして怒るだろう。湯気さえ立てるかもしれない。そして僕をひとしきり詰って行ってしまうだろう。しかしきっと僕の疑問は、喉にひっかかった小骨のように、忘れたと思えば不意に軽い痛みを与えて思い出させ、君を不快にするのだ。 そのたびに君は、その不愉快を与えた僕に苛立つだろう。けれど君は僕を恨み続けはしない。賢明な君は早晩、その疑問の所有権が僕から君へとすでに移っていることに気付く。ああ、君が愚

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  • 手紙 〜拝啓 十五のベジータへ〜 - OjohmbonX

    拝啓 この手紙 読んでいるベジータ どこで何をしているのだろう 十五の王子は誰にも話せない 悩みの種があるのだよ 未来の自分に宛てて書く手紙なら きっと素直に打ち明けられるだろう 今 滅ぼして 滅ぼして 消えてしまいそうな星を 見ながら思う 俺は強過ぎないか? ひとつしかないこの体 いつかはばらばらに割れて 強さを制御 できずに死ぬ それが怖いんだ 拝啓 ありがとう 十五のベジータ 伝えたい事があるのです まずは大丈夫 そんなに強くない 思っているほど強くない カカロットに勝てず 変な名前の子と 幸せに暮らす 日々を送っています フリーザに負け セルに負け ブウにも負けてしまうけど 変な名前の子 家で待っててくれる それから俺は 何回か死んでしまうことになるが 苦くて甘い今を生きている カカロットとは合体したこともある 恐れずにトランクスを育てて ラララ ラララ ラララ Love Bl

    手紙 〜拝啓 十五のベジータへ〜 - OjohmbonX
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    nuba 2012/02/07
    "ラララ ラララ ラララ Love Bluma"すばらしい…
  • 春、高楼の鼻の宴 - OjohmbonX

    思ったより乾いててびっくりしたから機転をきかせて、鼻水をペニスに塗って彼女に挿入した4日後に、同級生たちは僕のことを「しんべえ」と呼び始めた。どうしてだか、みんなが僕に優しくなった。 きっと彼女は不安になって女友達に「ここだけの話」をして、その中の誰かが彼氏に「ここだけの話」をして、その彼氏がみんなに話をしたんだろう。 彼女をそんな風に心配させるなんて、僕は配慮が足らなかったと反省した。だから2回目にふたたび鼻水をペニスに(というよりコンドームの上に。直接は汚いからね)塗った後、僕は彼女を心配させないよう顔を近づけて、 「大丈夫だよ。鼻水で妊娠はしないから、安心していいよ」 とささやいてから挿入した。 いつも通り一人で下校していると、学生もまばらになったあたりで、いつも一人で下校している同級生の島田が話しかけてきた。 「ねえ、しんべえ君って、その、三和さんと、えーっと」 僕はつい頬がゆるむ

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    nuba 2011/10/15
  • 名人伝 - OjohmbonX

    「ファミチキをひとつ」 コンビニの店員が顔を上げるといっこく堂がレジの前に立っていた。ちょうど彼が、世界中の腹話術師を相手にバトルを挑み続けては連戦連勝、残すは日の五月みどりだけかと思われていた季節のことであった。彼は口も動かさず 「ファミチキを、ひとつ」 と言い放って、ちょうどイヤフォンで聞くように頭の中全体で響いた声に驚いて店員が止まっていると、 「私です。あなたの脳に直接語りかけているのです」 といっこく堂の声が脳に響いた。口の動きと無関係に声を自在に出すという、腹話術を究めたかに見えたいっこく堂であったが、その境地すら突き抜けて、ついに声を出すことすら止めてしまった。そして直接人々の脳内に語りかけるようになったのだ。なおも停止したままの店員に対して突然、 「フ ァ ミ チ キ」 と頭が割れるほどの大音声で、教会の鐘を打ち鳴らすようにファミチキの言葉がたたき込まれてようやく、店員は

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  • ビフォー/アフター - OjohmbonX

    となりの家が、劇的ビフォーアフターされるのをテレビで見ながら、なんということでしょう、旦那さんが小さなお子さんを抱いて、脱衣場のない風呂へ、遠い居間から裸で向かう映像が流れたのだ。全国の視聴者にとってはある一人の、困った家に住む若い男性、夫、お父さんに過ぎないとしても、私にとっては他の誰でもない、毎朝挨拶をする隣の旦那さんなのだ。引き締まった体であるのに脇腹の下にかすかな肉の緩みを見てしまったら、もう、明日から、なんということでしょう。 匠が自己満足のために客観視をかなぐり捨てて据え付けた、床の下から現れる木のテーブル。あの妙なギミックを利用して、隣の若夫婦はアクロバティックなセックスを楽しんでいるきっと。8ヶ月の大きな腹をかかえた奥さんを、あのテーブルに乗せて、旦那さんは、あの若々しさの中にかすかな衰えを含んだ肉体を惜し気もなくさらして生殖には供されないただの悦びを楽しんでいるに違いない

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    nuba 2011/07/07
  • 伊佐坂家、真のトイレ - OjohmbonX

    「お手洗いを、お借りしたいのだけれど」 ほとんど消えそうに小さな声で、声に見合って身体も小さくしながら申し出たフネを、カルはかすかに笑ったようだった。受容か嘲りかは定かではない微かな笑いはさっと引いてカルはフネをトイレまで案内した。 フネは伊佐坂の家を知っていたので、何も先導してくれる必要はないのにとますます身を小さくした。 「ここが、おフネちゃんの望むトイレよ」 トイレのことを紹介したカルはそのままドアの前に立ったままだった。トイレに入る自分を見られることさえ恥ずかしいと思っているフネはカルの気のつかなさに少し腹を立てながらカルの脇を抜けようとした。けれどカルはフネの前に身体をずらして妨害した。もう一度別の側から抜けようとしたフネをカルは再び邪魔した。 「ちょっと、おカルちゃん……」 フネが訪ね先でトイレに行きたいとは言えないタイプの女だということを、カルは長い付き合いで重々承知のはずで

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    nuba 2011/06/10
  • ポンキッキはもう開かない - OjohmbonX

    「お前、俺の女になれ」 と言われムックは激しく動揺した。 「わ、わ、わ、ワタシは男の子ですぞ」 「関係ねぇよ。俺の女になれ」 ムックはときめいた。このままあの緑のバケモノと一緒にいたって幸せになれっこない。バケモノにばかり華やかな仕事がまわってくる。それを自分は家のテレビで見るばかり。果てはダスキンから就職の誘いがくる始末(モップとして)。もういやだ。 ムックはガチャピンを残してテレビから去った。そして男と暮らし始めた。その夜、ムックは極上のよろこびを知った。 「わ、わ、わ、ワタシは男の子ですゾ〜〜」 ただ男の帰りを待つだけの日々がひたすら幸福だった。そして帰宅した男を迎えるたび、うれしさに気がくるいそうだった。 「ご飯ですぞ? お風呂ですぞ? それとも……わたしですぞ……?」 そうしてムックは極上のよろこびを味わう。 「男の子ですゾッー!」 よろこびあまってムックの毛が伸びた。もじゃもじ

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