人種や性をめぐる近年の米英社会の分断と混乱は激しい。「文化戦争」と呼ばれ、政界も揺るがしている。影響は日本社会にも忍び寄る。「キャンセルカルチャー」がそれだ。過去の差別的発言などがネットで炎上、職やポストを失う人が頻繁に出る。英国の保守派論客がゲイ・女性・人種・トランスジェンダーの4分野で起きたさまざまな事例を通じて「文化戦争」の実態を描き、マルクス主義と情報技術の影響、「ゆるし」という3つの視点で分析した。 保守側に偏った議論だと考えるべきでない。著者自身がゲイであり少数派だ。立ち返る原点は、人を「肌の色でなく人格で判断する」社会を求めたキング牧師だ。むしろ伝統的リベラルといえる。それが保守派に分類されるところに、今日の米英社会の過激な変化がうかがえる。 著者は少数派の権利拡大を批判しているわけではない。急激な変革によって生じる混乱で、逆に権利拡大への「反動」が起きることを恐れている。