■量が質に転化する瞬間 産経新聞社主催の将棋タイトル戦「棋聖戦」の特別観戦記者として私は日本に行き、数日前にシリコンバレーに戻った。いまだその興奮が冷めやらぬまま、本稿を書いている。 将棋界最高峰の2つの頭脳、棋聖・佐藤康光(38)と挑戦者・羽生善治(37)の対決の現場に居合わせて私が見たのは、知が生まれる瞬間の厳粛さであった。トップ棋士とは、最先端の難問に取り組む研究者のような人々なのだ、ということも肌で理解した。そして、将棋の世界に深く確かに継承されている日本文化の素晴らしさを再発見できた。これらのことは、日本を離れて14年になる私のこれからにとても大きな影響を及ぼすのではないか、という予感に満ちていた。その詳細な報告は、「孤独な営為に深い感動」(一昨日の本紙文化面)をぜひご一読いただきたい。 ところで私の専門は「ウェブ進化や情報爆発が引き起こす社会変化」の研究である。羽生はあるとき、