不如帰(ほととぎす) 小説 徳冨蘆花 第百版不如帰の巻首に 不如帰(ふじょき)が百版になるので、校正かたがた久しぶりに読んで見た。お坊っちゃん小説である。単純な説話で置いたらまだしも、無理に場面をにぎわすためかき集めた千々石(ちぢわ)山木(やまき)の安っぽい芝居(しばい)がかりやら、小川(おがわ)某女の蛇足(だそく)やら、あらをいったら限りがない。百版という呼び声に対してももっとどうにかしたい気もする。しかし今さら書き直すのも面倒だし、とうとうほンの校正だけにした。 十年ぶりに読んでいるうちに端(はし)なく思い起こした事がある。それはこの小説の胚胎(はいたい)せられた一夕(せき)の事。もう十二年前(ぜん)である、相州(そうしゅう)逗子(ずし)の柳屋という家(うち)の間(ま)を借りて住んでいたころ、病後の保養に童男(こども)一人(ひとり)連れて来られた婦人があった。夏の真盛りで、