ピュリッツァー賞を受賞した『ザ・ロード』、『すべての美しい馬』に始まる〈国境三部作〉、アカデミー賞四冠のコーエン兄弟監督映画「ノーカントリー」の原作などを執筆した現代アメリカ文学を代表する小説家コーマック・マッカーシーが亡くなりました(享年89)。登場人物の台詞をかぎ括弧でくくらず、地の文に読点をほとんど打たずに淡々と描かれる事物。心理描写を差し引いた独特の文体で暴力と哲学、そして人間の在り方を描き、多くの作品が映画化されました。名実ともにアメリカ文学の巨匠でした。謹んでご冥福をお祈りいたします。 この記事では、早川書房より刊行されたコーマック・マッカーシーの作品をご紹介します。()は原作発表年です。 『チャイルド・オブ・ゴッド』(1973)レスター・バラード。暴力的な性向を持った彼は、家族を失い、家を失い、テネシーの山中で暮らしはじめる。次第に社会とのつながりさえ失われていくなか、彼は凄