薬物依存というと,多くの人は覚醒剤や大麻といった違法薬物を連想するかもしれない。確かに,わが国の薬物依存臨床における中心的な依存性物質は覚醒剤であり,これまで薬物依存に対する治療や支援は覚醒剤乱用者を中心に議論されてきた。しかし,違法薬物ではなく,医療者にとって身近な医薬品を原因とする薬物依存が近年増加している。 例えば,精神科医療施設における薬物依存患者を対象とする全国調査によれば,睡眠薬や抗不安薬(主としてベンゾジアゼピン系薬剤)といった処方薬や,咳止め,風邪薬といった一般用医薬品を乱用し薬物依存となる患者が,覚醒剤に次ぐ患者群になっている(図)1)。一般用医薬品(以下,市販薬)とは処方箋なしでも薬局やドラッグストアで気軽に購入できる市販薬のことであり,カウンター越しに販売される医薬品という意味から,OTC薬(Over The Counter Drug)とも呼ばれる。また,救急医療の現