「国益」追求に傾斜する世界 「国家は国益を追求する存在である」という命題は、変転する世界秩序の趨勢を見定めるうえで重要な手がかりとされてきた。近年の世界的な「自国第一主義」の広がりを目の当たりにすると、この命題が帯びた妥当性を見せつけられているようにも感じられる。トランプ前米大統領が声高に掲げた「アメリカ・ファースト」や、中国の公式発言に散見される「核心利益」をはじめとして、各国の政治指導者が自国の利益を喧伝し合っている様相が頻繁に報じられてきたからである。新型コロナワクチンの開発/確保をめぐる国際的な動向においても、そこに「国益」を競い合う国家のあり方を報じた記事が相次いでいる。 世界的に「自国第一主義」が席巻するなかで、日本の動向も決して例外ではなかった。安倍晋三前首相は、就任から程なくして「国益を守る、主張する外交」を施政方針演説で打ち出した【注1】。第19回統一地方選挙(2019年