10年前の2012年12月12日、一人の被告の女性が命を絶った。兵庫県警本部(神戸市中央区)の留置場で自ら首を絞めた。元被告の名は角田美代子、当時64歳。尼崎連続変死事件を主導したとされる。事件では次々に家族が乗っ取られ、男女8人が命を奪われたか、不審な死を遂げた。犯罪史上例を見ない凶悪事件を、元被告と接見を重ねた主任弁護士が振り返る。 ■普通のおばちゃん 「先生、よろしくお願いします」。高木甫弁護士(75)=兵庫県弁護士会=が、角田美代子元被告に初めて会ったのは22年前だった。「礼儀正しい、さっぱりとした普通のおばちゃん」。それが最初の印象だった。 元被告は00年、親族らと集団窃盗をしたとして起訴された。当時、捜査当局は既に周辺で自殺者や不審死がいると把握していた。しかし立件には至らなかった。 裁判所は検察側が主張した「美代子主導説」を排し、「一介の平凡な主婦に過ぎない」という高木弁護士