大学院1年目の夏、私は毎日のように先生の部屋に行った。 学会の締め切り間近であせっていた。 「無理に発表する必要はない」 と研究室の人たちは言ってくれた。 でも、他の研究室の同級生たちは発表することが決まっていた。 私もなんとか発表がしたかった。 少しでも研究を進めたくて、毎日先生に指示をもらった。 先生の話をとにかく、ふんふん、わかりました、と言って聞いた。 本当は、ちゃんとわかってなかった。 でも何をやればいいか、というのはわかった。 それで十分だった。 余計なことを聞いている時間はなかった。 作業が終わったら、すぐ先生に報告した。 「うん、これなら発表を申し込んでもいいですよ」 という言葉を、私はいつも期待した。 でも先生は、いつも資料をのんびりと見て、期待外れのことを言った。 たとえばある日、先生は、 「この式は、よく見ると面白い形をしてるね」 と言った。 「面白い?」 と私が聞く