宮内を読んだのは『ヨハネスブルグの恋人たち』が最初で、デビュー作の『盤上の敵』はいまだ読めていないが、大森望編の『NOVA』シリーズで短編を読んだりしつつ本作にたどりついた。宮内悠介という作家のイメージはまだそんなに固まっていなくて、『恋人たち』では紛争地で落下する初音ミクのようなロボットたちのなれの果てを美しい文章で彩っていた記憶があるが、今回も音楽という意味では共通しているところがある。そしてストレートではない、少しひねくれたような美しさもここにある。青春とはそういうこと、かもしれない。 グレッグ音楽学院。入学するのは極めて困難な難関音楽学院として知られるこの学校の入学試験を控える日本人、脩。アメリカ西海岸において困難な挑戦を試みる理由の一つは父親の存在で、脩の父親である俊一はグレッグ音楽楽員の入試を突破し、そしてのちに失踪する。事実上の母子家庭で育った脩は母親の愛情にも反発を覚え、不