幸せの定員(創作小説) ***+1*** M小学校は和幸が六年生の秋に転校した先の小学校だった。転校の理由は父親の瀬山幸司が長年の夢だったペンション経営を始めるためにM村に引っ越したからだった。 幸司は二十年間勤めた大手家電メーカーを辞め、県中央部の山間の地、M村でその夢を実行にうつすことにした。茅葺き屋根の旧家をペンションに改装し、食器や寝具類を用意し、車も送迎用のワゴンに買い換えた。近くに温泉が湧き、冬にはスキー客も数多く訪れる地方だった。 若い頃から幸司は暇さえあれば旅に出ていた。休みのたびに行き先も決めず、リュックを背負ってぶらりと一人で出かけていた。 社会人になってからはその機会も少なくなり、いつしか幸司の楽しみは、旅をすることからそれを語り合うことへと変わっていった。旅を語り合う最良の方法は、旅人をもてなす側になればいい。そうすればいつでも飛び切りの刺激に満ちた話を聞くことがで