「道路工事の現場で穴が見つかった」。こう聞いても人は驚かない。しかし、この穴がはるか昔、3万年前の地層から出てきたと聞けばどうだろう。3万年前といえば縄文時代よりもさらに古い旧石器時代だ。稲作の文化もなければ、土器すらない。その穴は複数あり、どれも四角い形をしていて、きれいに一列に並んでいるという。聞けば聞くほどミステリアスだ。3万年前に何があったのかー。訪れた現場の様子は、想像を超えていた。そこから、この奇妙な穴の謎に迫る取材が始まった。(科学文化部記者 国枝拓) 穴が見つかったのは、三浦半島の南西、神奈川県横須賀市にある船久保遺跡。相模湾を見下ろす丘の上にあり、遠く望む富士山が雲の切れ間からわずかに頭をのぞかせていた。 この遺跡は、道路建設の際に小さな石器が発見されたことをきっかけに、5年前から発掘調査が行われている。穴は、地表面を数メートル掘り下げた3万年前の層に、くっきりと口を開け