あなたにとっての長渕剛像とはどんなものだろうか。 ファン以外の人にとっては特攻隊の映画『男たちの大和/YAMATO』に主題歌を提供したとか、桜島や富士山麓で超長時間ライブを敢行した、といった断片的な情報を耳にするくらいかもしれない。 僕は特攻隊や自衛隊を賛美する、マッチョなアーティストという偏見を持っていた。 しかしそうした単純化はまったくの誤りだと知らしめる本が登場した。 文芸批評家の杉田俊介氏による『長渕剛論 歌え、歌い殺される明日まで』である。 この本は長渕剛のヒストリーを丹念にたどり、歌詞を読み込み、本人と対話しながら、長渕剛の「男らしさ」とは何なのかを掘り下げていく。ただしこの本は「男らしさ」なるものを、人間が誰しも抱える弱さ、変わろうと思っても変わることができない自己矛盾、ある種の情けなさからとらえなおすのだ。 ねじれている。 そのねじれを体現する長渕剛という表現者がもつ複雑で