カンヌ金賞、続き銅賞。そして今村昭は、CMクリエーターの枠を超え、いかなる映像世界に挑戦していったのか(前編) 資生堂ロングCM「色」は1979年正月、特別番組「ウエストサイド物語」(ノーカット放映)で、ただいちどのみオンエアされている。撮影、編集ほかは前年の晩秋であった。かなりタイトではあったのだ。 松本ロケに行く前の日に、例えばこんなことがあった。実相寺監督のコンテでは、少女は最後に口紅を薄く引く(つまり塗る)ことになっていた。資生堂の担当、中尾さんも了承してはいたが、前日、NGを出してきた。中学生では問題になると困るという会社の決定だ、という。代案で中尾さんも交え、大騒ぎ会議になり、珍妙な案が数多く出た…が略す。 いちどはくさった実相寺監督が、よし、やる、と決めた。── 翌日からの松本郊外は、寒かった。しかし、監督の頭の中にはすべてのイメージがあり、若き名匠、中堀正夫はそれを受け巧み