先週、陸軍士官学校や防衛大など出身の経済人でつくる同台経済懇話会に招かれて講演をした。通常、企業研修などでは、仮説思考や発想法を科学とからめてお話しすることが多いのだが、今回は、いつもは封印している話題を披露することにした。　それは「宮澤賢治と藤原定家を科学の視点から読み解く」という、一風変わった試みである。たしかに、一般の企業研修には不向きな話題ではある。　宮澤賢治の「銀河鉄道の夜」の場面設定は何月何日だろうか？　そんなことは、ふつう、文学解説書には書かれていないが、科学的に検証が可能だ。まず「銀河鉄道の夜」の次のようなせりふに注目する。　「もうじきはくちょうの停車場だねえ。」　「ああ、１１時かっきりには着くんだよ。」　主人公のジョバンニとカムパネルラの会話である。それから、検札にきた車掌のせりふもある。　「南十字（サザンクロス）へ着きますのは、次の第３時ころになります。」　北天と南天の

７月に迫った洞爺湖サミットは「環境」が大きなテーマだ。二酸化炭素を出さないエネルギーをどう調達するかが、世界に共通した問題として浮上している。二酸化炭素排出の主な原因である石油やガソリンの元になる原油は、５０年程度で枯渇すると予想されるが、このままのペースで使い続けると温暖化による地球環境の激変を招く恐れがあり、徐々にクリーンなエネルギーに移行する必要がある。　こんな中、日本のメーカーＴＤＫが先週、太陽光発電の電力変換装置のための新素材を発表した。これまでの素材と比べて、無駄になる電力が２０分の１から１６０分の１になり、６月から量産に踏み切るという。はたして太陽光発電は爆発的に普及するのだろうか。今回は太陽光エネルギーについて考えてみたい。　私が好きな某テレビ番組では、人気グループＴＯＫＩＯのメンバーたちが体を張って、電車と自転車で競争したり、農業をやってみたり、ソーラーカーで日本全国を一

■言葉（ことば）ってェ奴（やつ）は案外（あんがい）しぶとい　ここのところ編集者とけんかをすることが多い。科学の中身を易しく書け、という注文もさることながら、漢字を開け、開けと五月蠅（うるさ）いからである。「そんなにかんじをひらいたら、きれめもわからなくなるし、せっかくのニュアンスもつたわらなくなってしまいますよ」。もともと、かなり仮名を使う質（たち）なので、そこからさらに「開け」と言われると腹が立つ。　作家には、長年の間に培われた癖のようなものがあり、たとえば、私は「調査を行った」ではなく「調査を行なった」と書くし、「地球に住む」ではなく「地球に棲む」、あるいは、「格好」ではなく「恰好」と書くことが多い。ひらがなとカタカナと漢字の比率も、ようするに書き手のバランス感覚なのであり、常用漢字のようなお仕着せの基準により左右されるべきものではない。　ちなみに新聞を読んでいると、常用漢字から逸脱し

■２０年で実現可能な「夢」　科学者や技術者が「５０年後に実用化できます」というとき、私は眉（まゆ）に唾（つば）をつけることにしている。半世紀後、仮にその技術が実用化できなくても、誰も責任をとらないからだ。だが、「２０年で実用化できます」というときは（きちんと吟味したうえで）信じることができる。　最近、読書をしていて、久々に２０年で実現可能な夢のプロジェクトに出合った。『宇宙旅行はエレベーターで』（ランダムハウス講談社）という本に出ていた「宇宙エレベーター」だ。地上から高度１０万キロまでケーブルを伸ばし、このケーブルを利用して宇宙までエレベーターで行こう、というのである。もともとはロシアの科学者が思い付いたようだが、先日亡くなったＳＦ作家のアーサー・Ｃ・クラークの『楽園の泉』（ハヤカワ文庫）で世界的に有名になった。　なんだＳＦの話か、と言うなかれ。すでにアメリカのＮＡＳＡは、この壮大なプロジ

ヒトの指は鰭から進化！？　ティクターリクという魚をご存じか。今から３億７５００万年前のデボン紀に棲息（せいそく）していたと推定され、なんと「腕立て伏せ」ができたというのである。なんで、魚が腕立て伏せをしなくちゃならんのか、と不思議に思われるかもしれないが、魚が陸生動物へと進化する過程で鰭（ひれ）は腕の機能をもつようになる。　このティクターリクの化石の発見者の一人であるニール・シュービンが書いた『ヒトのなかの魚、魚のなかのヒト』（垂水雄二訳、早川書房）には、自分の子供が通う保育園に呼ばれて、園児たちに化石を見せたときの反応が出ている。「これはなんだと思いますか」と問われ、５歳児たちは「ワニ」と答える。魚と違って目がワニみたいな位置についているからだ。でも、別の子供が「魚」だと答えた。鱗（うろこ）と鰭があるからだ。そして、最後に「両方かもしれないよ」という答えが出てきた。シュービンは「保育園児

脳卒中で倒れた脳科学者の体験記を翻訳している。　ハーバード大学の脳神経学者だったジル・テイラー博士は、１９９６年のクリスマス直前のある朝、激しい頭痛とともに目覚めた。左目の奥が刺すように痛かったという。だが、偏（へん）頭痛持ちだったテイラー博士は、血流が悪いせいだと考え、フィットネスマシンで汗を流し、シャワーを浴びてしまった。　自分の脳で脳出血が起きていることに気付いたとき、すでに左脳の言語野は侵され、言葉をしゃべることも、理解することも、ままならなくなっていたという。　病院に担ぎ込まれ、手術により一命をとりとめた彼女は、その後の８年をかけて懸命のリハビリに励み、見事に言葉を取り戻し、元の職に復帰することができた。脳の神経細胞は（原則として）再生しないので、出血により侵され、失われた神経細胞は元に戻らないが、残された神経細胞を訓練し、テイラー博士は、ほぼ脳卒中以前の生活ができるところまで回

かつては、フーテンの寅さんを映画館に観に行くことから私の正月は始まった。寅さん亡き後は、箱根駅伝を応援し、「志の輔らくご」を渋谷パルコに聞きに行くのが恒例になった。視聴率改竄（かいざん）事件が勃発（ぼっぱつ）し、それが社会問題になっていた何年か前、その落語会の枕の話の中に、なんと私が登場したことがある。　その下りは、「『ところで、視聴率なんてもんは、数千万世帯のうちのたった千世帯ぐらいしか調査していないんだから、あんまり当てになりませんよね。こんな数字に一喜一憂することはないんじゃないですか』ってなことを、テレビ局の楽屋で仲間たちと話してたら、突然、秋山仁が現れた。そして、こう言うんですよ。『そんなことはない。視聴率ってどういうものかってことを簡単に言うと、ホテルのコックさんが、スープを味見するとき、大鍋の中のスープを全部飲んで苦いとか薄いとか…と調べるわけじゃないでしょう？　コックさんは

再び受験のシーズンが巡ってきました。少子化で入りやすくなったとはいえ、受験生の心理は今も昔も、さほど変わらないのではないでしょうか。　中学生のころ、遊びほうけていた私は、３年生になって「これではイケナイ」と思い、あこがれの高校に進学した先輩のところに受験の指南を受けに行きました。「机の前に座り続けて、畳が腐るほど勉強しなけりゃ、合格しないよ」というアドバイスを聴いて、ひどく感心した覚えがあります。　ところで、畳の敷き方には面白い規則があります。縁起をかついで４枚の畳の角を１カ所に集めない（４つの角が集まった点がシニメという言葉を連想させるとして嫌われた）というものです。このため、６畳間では図１の２通りしかありません。もちろん、上下や左右の入れ替えは同じとしての話です。実際の敷き方は右側で、左側の敷き方は見たことがありません。それは、上下を２等分する中央の横線が「切れる」「分かれる」に通じる

一般に「ジバチ」と呼ばれているハチの巣から、幼虫だけを取り出し、つくだ煮風に料理したものが、「蜂の子」として愛好家に珍重されています。　このハチの巣の取り方を先日、テレビで見ました。このハチは乾燥した地中に巣を作ります。これを探すのは至難のため、まずオトリのハチを捕らえ、それに目印の綿をつけて逃します。それを追いかけ、巣に戻ったところを掘り出すのです。　ジバチの巣は直径が３０センチから５０センチくらいまでで、その美しい造形は匠の技に匹敵します。筒形になった正六角形の穴を一面に敷き詰め、まるでタイル張りのような幾何学模様を作り出しているのです。なぜ、こんな配置にしたのでしょうか。　正しい理由はハチに聞かなきゃ分かりませんが、数学的には理由があります。同じ形の穴で平面をすき間なく敷き詰めるとき、周囲の長さにたいして穴の面積を最大にするのが正六角形だからです。つまり、ハチは巣の材料をなるべく少な

小学生のとき、「みんなで元気に歌いましょう」という先生の掛け声で合唱が始まりました。私は精いっぱい大きな声で歌ったのですが、先生に呼ばれ、「もっと小さい声で」と注意され、以来音楽コンプレックスを抱くようになりました。これではいけないと一念発起して、５５歳でアコーディオンを始めました。なかなか上達しませんが、音楽と数学は深い仲であることが分かってきました。　音楽と数学の関係を最初に研究したのは、ピタゴラスです。ピタゴラスは鍛冶（かじ）屋が鉄を打つときに、重さの異なるハンマーでたたくと異なる高さの音が聞こえることを不思議に思い、音楽の背景に潜む数理について研究し、今日の音階の基礎を築いたといわれています。　ハーモニーとはいくつかの音を同時に出し、音に厚みをだすことで、ドミソとかレファラなど３つの音を重ねた和音は、調和した美しい響きになります。　和音における３つの音の関係を円形鍵盤を用いて調べて

お笑いブームが続き、お笑いスターが世の中を楽しませてくれています。そのなかでも、大人にも子供にも幅広く人気を博しているのが、爆笑問題の２人でしょう。以前、２人の番組に呼ばれその際、２人の間で論争の元になっている問題に決着を付けてくれないかと頼まれたことがありました。　なんでも、ある番組の中で４個のシュークリームの中のひとつが激辛で、それを４人が順番に選んで食べていくゲームがあったそうです。そのとき田中さんは、「最初に選ぶ人が有利だ。だって４個のうち３個も無事なんだから、無事なのが当たる率が高いから」と主張。それを聞いた太田さんは、「いや、田中、それは違う。最後に選ぶ人間が一番有利だよ。自分の前に３人の人が選ぶんだぜ。誰かが激辛を当てている率の方が高いよ」。　「そんなわけないよ。トップバッターが得」　「バカだな。ラストバッターだ」　そんなやりとりが楽屋で続いたそうです。今回はせっかくだから、

最近、栄養剤やビタミン剤を何種類も毎朝晩、常用しています。忘れないように各回にとる分だけを小袋に小分けにしておくのですが、その作業に意外と時間がかかります。特に、錠剤シートを１つずつの小片にバラすのが面倒。そこで今回は、錠剤シートや板チョコの分断に関する数理について考えてみましょう。　たとえば図（ａ）のように、縦に２個、横に３個の合計６個の錠剤が並んで入っているシートがあったとします。このシートには縦、横に分断しやすくするためのミシン目が入っていて、それに沿って折ると二分されます。ここでは、重ね折りやミシン目の途中で折るのをやめることはできないものとします。　さて、６個の錠剤をバラバラにするのに、合計何回折ればよいのでしょうか？　まず、ミシン目リットルに沿って折り、その結果得られる１×３の２枚の断片のそれぞれをｍ、ｎに沿って４回折ります〈図（ｂ）〜（ｆ）〉。すなわち、５回折ったことになりま

「サラリーマン」という和製英単語が、米国のどこかの辞書に載ったという話を聞いたことがあります。的確な表現がついに本場で受け入れられたのだと思います。　外国人が気に入った和製英語のひとつに、バーコード・ヘアスタイルという単語があるそうです。ご存じでしたか？　最初、コンピューターで設計された最新のヘアスタイルかと思いきや、髪の毛が衰退していく一時期に自然になるバーコード模様のヘアスタイルのことだったと分かりました。言い得て妙だとしきりに感心してしまいました。　冗談はさておき、今回はバーコードの数学的しくみを解説しましょう。　最近はどんな商品にもバーコードがついていて、レジの人がそれにレーザーを当てるだけで、その商品に関する大切な情報をすべて登録できます。だから、レジで待つ時間が大幅に短縮されただけでなく、お店側の在庫管理や品質管理にも革命をもたらしました。実はこの背景に小学校で習う算数があるの

ある職場にフクシャチョウとあだ名が付いた人がいます。副社長ではありません。いつも複写室（コピー室）を独占していたのです。彼はコピー機の取り扱いに精通していて、「両面カラー印刷で片綴じ２０部」なんていう複雑な注文も、素早く要望通りに作製してくれるそうです。　コピーといえば、Ａ３、Ａ４、Ａ５、Ｂ４、Ｂ５などさまざまなサイズの用紙の間で自由自在に拡大・縮小できます。当たり前のようですが、これには紙の規格設計の妙が貢献しているのです。　Ａ判の用紙は、縦と横の長さの比が１：√２　で面積が１ｍ２の長方形の紙を基準としてつくられています。１：√２　という比は正方形の一辺と対角線の比です（図１）。この基準紙をＡ０判とし、半分に折ったものをＡ１、さらに半分に折ったものをＡ２…という具合に、次々に半分に折ることでＡ１２判まで作られています。　Ｂ判は、縦、横の比率が１：√２　の長方形で面積が１　．５ｍ２の紙を基

太陽の周りを回る惑星といえば、長らく“水金地火木土天海冥”の９つでした。ところが一昨年、「他の惑星に比べて小さい」という理由で、９番目の冥王星が準惑星に格下げされてしまいました。　その“空席になっていた９番目の惑星の座”を射止める未発見の惑星が、かなり高い確率で存在しそうだと、神戸大学の惑星科学研究センターが先月末に発表しました。　１７７０年前後に、惑星にまつわる有名な予測が発表されました。それは、惑星と太陽の距離に関する「チチウス・ボーデの法則」です。　当時発見されていた６つの惑星（水金地火木土）について、表のように、まず上段の左端を０、その右を３として、次々に２倍した数を書いて“補助数列”をつくります。それぞれの数に４を加えたのが中段の数列で、チチウス・ボーデの法則は、「太陽から地球までの距離を１０としたとき、この中段の数が太陽から各惑星までの距離を与えている」というものです。下段の実

日本では「ネズミ算」が知られていますが、西洋には「ウサギ算」というのがあります。「正月に生まれた１つがいの子ウサギがいる。このつがいは、１カ月おいた３月から、毎月１つがいずつの子ウサギを産み続ける。また、新たに生まれた子ウサギも、１カ月おいた翌々月から、毎月１つがいずつの子ウサギを産み続ける。すると、ウサギのつがいの総数はどのように増えるか」という問題です。　この条件を満たすウサギの増え方を知るには、数字を次のような規則で並べると分かりやすくなります。まず１を２つ横に並べる。そして、それら２数を加えた２をその右に書き加える。次に１と２の和３をその右に書き、２と３の和５をその右に書く。このようにして、すぐ左の２数の和をつぎつぎ右に書き加えていくと、左からｎ番目の数がｎ月の答えになります。その理由は、２カ月前のつがいだけが同数のつがいを産むためです。このようにして得られる数はフィボナッチ数と呼

牛乳のテトラパックって知っていますか？　最近はあまり見かけませんが、三角パックなどとも呼ばれ、かつて給食などで配られた牛乳の入った四面体（三角錐（さんかくすい））の紙容器です。　この容器をよく見てみると、正四面体とは少し違う形をしています。この四面体は立体図のように４つの合同な二等辺三角形の面をもちます。２辺ＡＢとＣＤは同じ長さで、この長さを２とすると、他の４辺ＡＣ、ＡＤ、ＢＣ、ＢＤの長さは√３（約１．７３）です。　実はこの紙パックには２つの便利な特性が隠されています。　ひとつは、紙パックを生産する際、無駄が一切出ないので、コストを安く抑えられることです。この容器をＡＢ、ＣＤ、ＡＨ（ＨはＣＤの中点）に沿って切り開くと平面図のように、見事に幅４、高さ√２の長方形になります。実はテトラパックは、円周が４の円筒形の紙を√２間隔で裁断したものから作られるのです。　もうひとつの特性は、たくさんのパッ

空に舞う２個のしゃぼん玉が２つ合体すると、表面の共通部分は円になり、３個が合体すると表面の共通部分はたったの２点になります。　この単純な事実を応用した文明の利器に、地球上の自分の位置を特定するＧＰＳ（Ｇｌｏｂａｌ　Ｐｏｓｉｔｉｏｎｉｎｇ　Ｓｙｓｔｅｍ＝全地球測位システム）があります。　ＧＰＳは地球の周りを回る複数個の人工衛星から送られてくる電波を受信し、各衛星からＧＰＳまでの距離を計算します。ＧＰＳ用に人工衛星から送られてくる電波は、それが発信された時刻が特定できるようになっています。その電波が発信された時刻と、ＧＰＳが受信した時刻とのずれから、人工衛星とＧＰＳとの距離がわかるのです。　２つの人工衛星Ａ、ＢからＧＰＳ（あなた）までの距離がそれぞれａ、ｂだったとしましょう。すると、あなたはＡを中心とする半径ａの球面上にいて、かつ、Ｂを中心とする半径ｂの球面上にもいることになります。よって、あ

【秋山仁のこんなところにも数学が！】（１５）解読不能なデータの暗号化 (1/2ページ) 2008.4.22 08:19 ７、８年前、フランスで１人の情報技術者が１００桁（けた）にものぼる大きな数Ｎを２つの素数ｐ，ｑの積に分解し（Ｎ＝ｐ×ｑ）、逮捕されるという事件がありました。実は、その大きな数Ｎは、当時のフランスのキャッシュカードのセキュリティーを守る大切な数でした。それにしても、なぜＮを素数に分解することが犯罪につながるのでしょうか。　インターネットなどを介して、カード番号のような重要な情報をやりとりするとき、情報を「暗号化」します。従来の暗号は、暗号化の方法さえわかれば自動的に解読法もわかってしまうものでした。たとえばシーザーが用いたとされる暗号は、各単語のアルファベットを何個かずらすというもので、仮に６文字後ろにずらす暗号としましょう。この事実を知っていれば、“ＰＯＴ”という暗号は

今年のＧＷ後半はちょうど大潮に当たり、潮干狩りには絶好なのだそうだ。ご存じのように貝には２種類あります。１つは二枚貝で、その代表はアサリやハマグリ。もう１つは巻き貝で、サザエやタニシです。　この巻き貝や二枚貝には、外側の殻に驚くような秘密があります。まず、巻き貝について説明しましょう。　図１は巻き貝の渦を真上から見た形を整形したものです。この図を切り抜いて、次の実験をしてみてください。渦の中心を針のようなもので固定し、この図を時計の針と逆の方向に回します。すると、渦が回ったとは見えず、渦が大きくなっていくように見えます。実験を何回か繰り返せば、きっと納得できるでしょう。これには確かな理由があり、決して目の錯覚ではありません。大きなルーペを用意し、これを新聞紙から次第に離していくと、渦は次第に大きくなります。　通常、生き物は体形が相似的に成長します。貝の成長を考えると、海底の養分は場所によっ

いまでは、料理のときに用いる計量カップには目盛りがついているので、どんな量でも簡単に量れます。しかし、昔の酒屋さんは、目盛りが一つもついていない六合マスを使って、店の酒樽（だる）からお客さんの容器へ１合、２合、３合、４合、５合、６合のそれぞれの量の酒を正確に量り出していたそうです。一体、どのように量り出していたのでしょうか。ただし、その際、衛生上の都合から酒樽から酒をくみだすのは１回限りとし、六合マスから酒樽へ酒を戻したり、お客さんの容器に酒を注ぐことは何回でも行ってよいものとしましょう。　６合を量り出すには、六合マスいっぱいに酒をくみ出せばよいので、簡単です。そこでまず、３合の量り出し方を考えましょう。　６合マスを図１のようにまっすぐに傾ければ、酒の量は６合のちょうど半分の３合となります。次に簡単なのは、１合の量り出し方です。六合マスを図２（ａ）のように、水面が底面の対角線と上面の１点を

【秋山仁のこんなところにも数学が！】（１８）よりよい選挙の方法とは？ (1/2ページ) 2008.5.13 08:21 集団の意思決定をするための民主的な手段として選挙があります。選挙制度はさまざまです。五輪開催地を決める選挙は、１回目の投票、２回目の投票…と最少得票数の候補地をひとつずつ除外しながら投票を繰り返し、最終的に１都市に絞り込みます。なぜ、こんなまどろっこしい方法で行うのでしょうか？　１回の多数決の方がスッキリしているじゃないか、と考える人も多い。だが、それでは集団の意向を最もよく反映しているとは限りません。　たとえば、クラスの２５人に、Ａ〜Ｄの４人のクラス委員の候補について好ましいと思う順に記入してもらったら、図１の４つのパターンに絞られたとしましょう。　多数決をとれば、最多得票のＡが勝者です。だが、Ａを１位に支持したのは全体の３２％（８÷２５＝０．３２）で、最下位と考える

【秋山仁のこんなところにも数学が！】（１９）傷に強いＣＤの秘密 (1/2ページ) 2008.5.20 08:01 先日のテレビ番組で、少女たちがレコードを見て驚いている姿に驚きました。「えーっ！？　チョットの傷でも再生できないんですか？　信じられなーい」。でも、彼女たちの驚きは、とりも直さず数学への賛美にほかなりません。ＣＤには数学の理論が応用されていて、少しぐらいの傷が付いてもヘッチャラ。自動的に情報（音）を復元する賢い“システム”が組み込まれているのです。一番簡単な復元法を紹介しましょう。　ＣＤには、０と１の２つの記号で情報が符号化され記録されています。いま、ＣＤの各情報が４桁（けた）の数で構成されているとしましょう。００００、０００１、００１０、００１１、０１００…１１１１と全部で１６個の異なる情報を表せます。ＣＤに傷が付いて、ある情報のどこか１桁が判読不能になったとき、その情報を

（１）１００年経っても、１０００年たっても永遠に壊れない　（２）見つけるのに１円のお金もかからない　（３）目で見たり、触ったりできない　（４）人種、宗教、文化、思想、価値観などに一切依（よ）らず、誰にとっても真実である　（５）見つけても、もうからないし、特許も取れない　こんな条件を満たすものが数学の定理です。定理を探し求め、数学の言葉で記述し続ける人が数学の研究者です。　私はひょんなことから、こんな頼りない仕事に従事することになってしまいました。世間で大抵のものは努力したり、みんなで協力したり、手間ひまをかければ、なんとか目標とするものを作り上げることができます。しかし“定理づくり”はそうはいきません。死にもの狂いになって、１年間頑張ってもうまくいかないこともあります。また、やっとのことで仕上げても、遠い昔、世界のどこかの誰かが既に見つけていたら、自分の発見とは認められません。　しかし一発

腎臓や尿管に石がたまり、時には激痛を伴う腎結石や尿路結石という病気があります。かつては麻酔をかけて開腹し、その石を摘出していたので、何日も入院を余儀なくされました。しかし、最近は楕（だ）円の性質を応用し、いとも簡単に治療できるようになったのです。　そのカラクリを説明する前に、楕円の描き方と性質を紹介しましょう。　紙の上に２点Ａ、Ｂをとり、ＡとＢのそれぞれに鋲（びょう）を立てます。次にＡＢの距離の２倍より長い糸を輪にして、Ａ、Ｂの鋲にかけます。そして、この輪を鉛筆の先でピンと張りながら１周させると、鉛筆の先Ｐは楕円を描きます。　楕円上の勝手な点Ｐに対し、Ｐを通り、楕円に接する直線●を引きます。すると、●とＡＰ、ＢＰのそれぞれの成す角α、角βは等しくなります。　ここで楕円の周が鏡張りになっていると考えてみてください。点Ａから光を放つと、角αと角βが等しいことから、どの方向に放たれた光も鏡に反射

ドリームジャンボ宝くじの抽せん結果をワクワクしながら待っている人も多いのでは？宝くじ愛好者の間でよく俎上（そじょう）に上るのが「宝くじを買うとき、連続した番号を買う“連番買い”と、連続していない番号をそれぞれ別個に買う“バラ買い”ではどちらが得な買い方か」という話題です。　「連番で買わなきゃ１等２億円とその前後賞５０００万円×２本の総額３億円を手にすることはできないぜ」と連番派。一方、「めったに出ない３億円を狙うより、地道にバラで買う方が安い額でもいろいろ当たりやすいよ」とバラ派は主張します。さて、どっちが数学的に得なのでしょうか。　「全部で１〜１０番の１０本、１等１本２０００円、前後賞５００円×２本のくじ」を、計算しやすくするため、２本買うとします。１等がどの番号であっても同じ結果になるので、ここでは１番が１等として考えてみましょう。　【連番を買う場合】　２本の当選最高額２５００円をゲッ

２００４年５月中旬から７月初めにかけて、ワシントンＤＣを中心とする北米東部や一部中西部地域で、１７年周期でセミが異常に大発生しました。どこの家でも、ベッドや洗面所、バスタブも一面セミだらけになって、足の踏み場もないほどだったそうです。さらに、木が枯れたり、騒音に悩まされたり、町中セミの被害で大騒ぎになった、と当時の新聞は報じています。　アメリカ大陸には１３年の寿命をもつ“１３年ゼミ”と、１７年の寿命をもつ“１７年ゼミ”がいるそうです。１３年ゼミは１３年ごとに、１７年ゼミは１７年ごとに大発生します。セミがこんなに長生きするとは知りませんでしたが、人生（セミ生？）のほとんどの期間を地面の中で幼虫として過ごしているので、目に触れなかったからでしょう。　数学的に考えてとても不思議なことは、１３も１７も、１と自分自身以外には約数を持たない数、すなわち素数であることです。『素数ゼミの謎』という本の著者

【秋山仁のこんなところにも数学が！】（２４）ブラックジャックの戦略 (1/2ページ) 2008.6.24 07:59 ＭＩＴ（マサチューセッツ工科大学）のエリート学生たちが、数学を武器にラスベガスに乗り込み、ブラックジャック（ＢＪ）で大勝負を賭ける−。そんなストーリーの映画「ラスベガスをぶっつぶせ」が公開されています。実話を元にホロ苦く、さわやかな青春ストーリーに仕立てられていますが、ＢＪと数学には密接な関係があるのです。　ＢＪはカードを２枚以上もらって、その合計点が２１を超えずに２１に近い方が勝ちというゲームです。テーブルに何人の客が座ろうと、それぞれの客はカジノの進行役、ディーラーとの勝負になります。　１９６０年前後まで、ＢＪはカジノの中でも、あまり人気のないゲームでした。状況が一変したきっかけは５６年、数学者のボールドウィンらが「ＢＪは客がディーラーより有利な状況で勝負に持ち込める

■インターチェンジのカーブの優しさ　高速道路のインターチェンジのカーブの形は、写真のような形になっていることが多いのをご存じですか？　このカーブに使われている曲線は、「緩和曲線」と呼ばれています。たとえば、直線区間と曲線区間（さまざまな半径の円弧）を直接つなげると、曲率が一気に変化します。そのため、走行中に急激なハンドル操作を必要としたり、突然大きな遠心力が作用したりするなど、乗り心地や安全性に悪影響を及ぼしてしまいます。その悪影響を解消するため、直線と円弧をつなぐ曲線、すなわち曲率が０（直線）から所定の円弧の曲率へ徐々に変化する曲線が必要になります。そこで導入されたのが緩和曲線です。この緩和曲線を導入することによって、ドライバーはハンドルを無理なくスムーズに操作することができるようになります。　緩和曲線のうち、高速道路のインターチェンジやジェットコースターなどでよく利用されている曲線は「

「世界のナベアツ写真集　３の倍数と３がつくページだけアホになります」発売記念イベントでの、世界のナベアツさん　 小学生の間で、今一番流行（はや）っているギャグは、世界のナベアツさんの“３の倍数のときアホになる”というギャグだそうです。おかげで、授業中に３の倍数や３のつく言葉が出てくると、クラスの誰かがオドケて大騒ぎになり、学校の先生たちは弱っているという。どうせなら２の倍数がブームになればいいと私は思っています。　“２倍する掛け算”と“２で割る割り算”の２通りの計算と足し算ができれば、九九を知らなくても、２つの数の掛け算が計算できてしまうからです。もちろん２つの数は、それぞれ何桁（けた）の数でもＯＫ。“ロシアの農夫の掛け算”と呼ばれるこの方法で５×３を計算してみよう。　まず、５と３を横に並べ、５の下には、１にたどりつくまで２で割った商を次々と書いていく（ただし、余りは無視して商だけ書く）。

北京オリンピックは８月８日午後８時８分という８並びの時に開会式がスタートします。それは、中国で“八”の字は大儲（もう）けする縁起の良い数とみなされているからだというのです。では、日本ではどうでしょうか。　大昔の日本には、一から八までの数しかなかったそうです。その名残は、八が大きな数の例えに使われていることでうかがえます。例えば八重桜は８枚の花びらを持つ桜ではなく、何重にもたくさんの花びらをつけた桜です。八百屋、江戸八百八町なども同様です。また、字の形が末広がりなので縁起のよい数と考えられています。　今回は、各数に対する縁起やイメージを紹介しましょう。　一は一番や一等のように、ものの始めを表します。他の数を生み出す基本で、縁起のよい数とされています。二はバランスや対比を表す数で、天と地、陰と陽などはどれも２つ１組でバランスがとれています。三は光を表す数で、これも縁起のよい数です。２つの釣り合

先日、近所を散歩していたら、古くなったパラボラアンテナが粗大ゴミとして捨てられていました。このゴミを出した人にお願いし、それをもらってきてパラボラの表面に銀紙を貼（は）ってみました。太陽に向けて設置し、水の入ったヤカンを焦点の位置につり下げると、ほんの１０分の間にヤカンの水の温度は８０度を超えました。実は、この原理を利用したエコ製品が“ソーラークッカー”として商品化されているのです。アフリカで数年前に開かれた省エネの国際会議のガーデンパーティーでは、所狭しとソーラークッカーが並べられ、各種のごちそうがふるまわれたそうです。　なぜ、パラボラを使うと、こんな便利なことができるのでしょうか。それは、放物線や放物面（いずれもパラボラ）は軸に平行に入ってくる光、音、電波などを軸上の特定の点に集める性質を持つからです。中学で習った放物線ｙ＝Ｘ２を例にとってみましょう。　上方からｙ軸に平行な光が入ってく

折り紙は日本の伝統文化のひとつです。鶴などを、いとも簡単に折る日本人を見て、大抵の外国人はその幾何学的なセンスに驚嘆します。長い間、折り紙は遊びの範疇（はんちゅう）とみられていましたが、最近になって実生活でもいろいろな応用があることが知られ、盛んに研究されています。たとえば、「パラシュートをどのように折り畳んでおけば、落下途中で絡まないか」「車に搭載されているエアバッグの畳み方」「回収に便利な折り畳み式のペットボトルの設計」など、枚挙に暇（いとま）がありません。実際、日本応用数理学会に『折り紙工学』の研究部会が創設されたりもしています。　今から１０年ほど前、離散幾何学の国際会議を東海大学で開催しました。その際、１８歳のカナダの大学院生、エリック・ドメイン君から「いい定理ができたので発表したい」と連絡がありました。１８歳で院生であることに驚きましたが、彼の発表内容を知ってもっと驚きました。内

大工さんはいろいろな技を持っています。そのひとつに、木に丸や四角い穴を開けたり、溝を彫ったりする技術があります。「彫り３年」といって、相当な修業を積まない限り修得できないものです。しかし最近、種々の電動工具などが開発され、大幅に手間暇が省けるようになったそうです。　普通の回転ドリルで開けられる穴の形は丸（円）に決まっています。昔、その常識を覆す正方形や正六角形の穴が開けられる回転ドリルが開発されました。その原理を簡単に紹介しましょう。　バミューダコイン＝写真１＝を見たことがありますか。このおにぎり形を正確には「ルーロの三角形」といいます。このコインを適当な大きさの正方形の枠の中に入れると、コインが４辺のいずれにも接し、かつ接点が正方形の角付近を除くすべての点に接したまま回転させることができます。よって、このおにぎり形をベースとした刃を正方形枠の中で回転させると、ほぼ正方形の穴が開くのです。

サイコロを１回または２回投げ、最後に出た目の大きさを競う賭けをすることにします。「１回目に４以上の目が出たら、そこで止める。３以下の目の場合、もう一度トライする」という戦略で、この賭けに臨むとしましょう。すると、あなたは結果的に４．２５［＝３／６×３．５＋１／６（４＋５＋６）］を獲得でき、平均３．５（各目の合計を６で割った値）を０．７５上回ることができます。　この確率の考え方を応用した理論に「最適停止の理論」があります。面接試験での採用のしかたを例にとり、解説しましょう。　ある会社で社員１人を募集することになりました。１０人の応募者があったので、１日に１人ずつ１０日にわたって面接試験を行うことにしました。なるべく点数の高い人を採用したいのですが、面接直後に採否を本人に伝えなければならないとします。

先日、小学生から「この式はどんな意味か？　７１０×５　１／２＝０．１４１」と出題されました。マジに考えていたら、「ナット−・カケ・ゴハン・ワ・オイシイだよ。テレビでお笑い芸人がやってた」と大そう得意げ。この小学生に「分数は好きか」と尋ねると、「大嫌い」と即座に返ってきました。　分数は、紀元前１６５０年ごろに書かれた古代エジプトの数学書リンド・パピルスにも登場しています。たとえば、何とも不思議なことに、分子が２で分母が奇数の分数が、分子が１の異なる分数（単位分数という）の和の形で記述されているのです。すなわち２／５＝１／３＋１／１５、２／７＝１／４＋１／２８…２／１０１＝１／１０１＋１／２０２＋１／３０３＋１／６０６。　なぜ、わざわざ単位分数の和の形で表していたのか？　本当のところは定かではありませんが、“古代エジプト人のパンの分け方”に起因しているのではないかという説があります。　たとえば

今年は北京五輪の影響で、甲子園の高校野球の影が薄くなってしまった気がします。それでも、日々熱戦が繰り広げられ、数多くのヒーローも誕生し、多くの感動をもたらしたことは例年と変わりません。今回はこの高校野球大会の結果を素材にしましょう。　「どんな混沌（こんとん）とした世界の中にも、何らかの秩序が潜んでいる」ことを示唆する理論の一つに「ポアソン分布」があります。ポアソン分布は「めったに起こらないこと」、例えば１年間に馬に蹴（け）られて死ぬ兵士の数、年間に地震などの災害がやって来る回数などを予測しているのです。　夏の甲子園には全国の地区大会を勝ち抜いた５５校が出場しました。１試合行うと１校が敗退するので１回戦から決勝戦まで合計５４回の試合が行われたことになります。各試合における逆転および勝ち越しの合計数（この数を“逆転数”と呼ぶことにします）を調べてみました。ただし、先制点は勝ち越しとはみなさない

日常生活で見慣れた曲線が、意外な形で歯車の設計に利用されている例を見てみましょう。　図１は歯車の一部を拡大したもので、噛（か）み合っているどの歯についても、うまい具合に１点だけが接触しています。ただし、これは断面図なので、正確には直線で接触しているというべきかもしれません。スムーズに回転する歯車の歯形を決める曲線は、数学的にきちんと計算したものでなければなりません。では、どんな曲線がいいのでしょうか。　これには、歯車が次の２つの性質を満たす必要があります。第１は噛み合っている２つの歯がいつも１点で接触することです。これは前述の通りです。第２は歯車の回転につれて、その接点が滑らか（連続的）に移動していくことです。　この２つの性質を満たすと、一方の歯車から他方の歯車へスムーズに力が伝わっていくのです。この性質を満たす曲線として、いくつかのものが考えられますが、インボリュート曲線とサイクロイド曲

【秋山仁のこんなところにも数学が！】（３５）交通渋滞と待ち行列 (1/2ページ) 2008.9.23 08:56 先日、新幹線に乗り遅れてしまいました。チケット購入の際、みどりの窓口で予想以上の時間を要したからです。多くの人が窓口に殺到すると、対応が遅れて行列ができます。窓口の個数に応じて、どのくらい人が並び、どのくらい待たされるかを解明するのが「待ち行列理論」です。この理論が威力を発揮する事象が日常生活の中にたくさんあります。　例えば、スーパーマーケットのレジや駅の改札口、込み合う道路の車線、高速道路の料金所、飛行機の離着陸や交通信号、多数のエレベーターの昇降など。今回は、交通渋滞について解説しましょう。　道路交通を考えるとき、基本になるのは車の交通量です。まず、場所と時間をどこかに決めて、そこを通過する車の台数を数えます。これが、その地点の交通量ｑです。この交通量が多くなると、快適な

【秋山仁のこんなところにも数学が！】（３７）球の詰め込み (1/2ページ) 2008.10.7 08:21 「横５センチ、縦８センチの長方形の中に、直径１センチの円を最大何個詰め込むことができるか」。これは、１９５０年代に出版されたパズルの本にも載っている問題です。図１のように規則正しく詰め込むと４０個です。ところが、図２のようにすれば、円は４１個詰め込めます。図１では円の中心が正方形状に並ぶ配置をしています。一方、図２では円の中心が正三角形状に並ぶ配置になっています。実は、“円の中心が正三角形状に並ぶ配置”が、円を一番効率的に詰め込む方法だということが２０世紀前半に証明されているのです。　これを３次元（空間）に拡張すると、「同じ大きさの球を空間に詰め込むための最密な配置は何か」という問題になります。この問題について、ドイツの天文学者、ケプラーが「どの球の周りにも１２個の球が囲む配置で空

世界のナベアツのおかげで３の倍数は一躍脚光を浴びましたが、三角形の方はその実力のわりに注目度はイマイチです。そこで今回は、三角形が他の図形、特に多角形の基本になっていることを紹介しましょう。　三角形と一言でいっても、千差万別、無数に異なる形がありますが、どの３角形でもその３つの角を寄せ集めれば、例外なく１８０度になることは周知の事実です。この性質から、どんな形の三角形もその形のコピーをたくさん使って、平面を敷きすき間なく詰めることができます。　ここで、三角形の面積の復習をしておきましょう。同じ形の三角形を２つ合わせると、平行四辺形になります。平行四辺形の面積＝底辺×高さだから、三角形の面積はその半分、すなわち底辺×高さ÷２です。　この事実を使えば、どんな多角形、例えば四角形、五角形、六角形…も、それらの内角の和や面積を簡単に求めることができます。そのためには、多角形に対角線を引いて、いくつ

最近、マンションやショッピングセンターなどで監視カメラの設置が増えてきています。防犯のため、不審者の出入りをチェックし、他人から見えない死角をなくすためには監視カメラを設置することが有効ですが、設置には経費もかかります。そこで、「なるべく少ない監視カメラで、店内全体を見渡せるようにするためにはどうすればよいか」を論じた数学の理論があります。　図１は、ある店の平面図です。この九角形のいくつかの隅（頂点）に監視カメラを設置して、店内のどの場所も見渡せるようにしたいとします。監視カメラは３６０度回転し、遮る壁がない限り、どの地点も監視できるものとします。例えば、頂点Ａにカメラを設置すれば、図１の色のついた部分を監視できます。この平面図をもつ店では、カメラ２台をどの頂点に設置したとしても死角が生じてしまいます。しかし、例えば、３つの頂点Ｂ、Ｄ、Ｇの位置に１台ずつカメラを設置すれば、店内全体を見渡す

プロ野球のペナントレースで、どのチームにも日程的に有利、不利のない対戦表を作成するのは意外と難しいものです。しかし、数学の理論を駆使すれば、首尾良く対戦表をつくれます。そのような２例を紹介しましょう。　将棋部の６人の生徒が５日間にわたって、将棋の対戦を行うとしましょう。どの生徒も各日１人の相手を選び、対戦します。５日間、どの生徒も自分以外のすべての部員と対戦する組み合わせ表を作るには次のようにすればよいのです。　各日、６人の生徒が２人ずつペアを組み、３組に分かれて対戦することになります。そこで、６人の生徒に１〜６まで番号を振り分け、おのおのを白点で表し、円周の５等分点にそれぞれ１〜５を、また、中心を６とします。次に、対戦する２人を表す点同士を線分で結びます。図１（ａ）は、１と６、２と５、３と４がペアを組んだことを意味します。例えば、この組み合わせを１日目の対戦表とし、２日目は、１日目の対戦

落語家、立川志の輔師匠がある高座の枕で“会いたい人”として挙げた一人は、エアコンの騒音を解消するためのアイデアを考えた某電気メーカーの事務職のＡさんでした。ひと昔前、エアコンはモーターの騒音がひどく、何とかならないか、と技師たちは日夜思案に暮れていたそうです。「モーターをセラミック素材で覆ったら？」とか、「モーターの回転の仕方を工夫したら？」などなど。しかし、どれもこれといった決め手にはならず、絶望状態。暗い顔をした技師たちが集まる社員食堂に、Ａさんがやってきて、「どうしたんだ？　みんな元気ないじゃん」と声をかけました。　騒音対策に行き詰まっている旨を話すと、Ａさんは「それなら、逆に音を出せばいいんじゃないか」と一言。「えーっ、お前は何を言ってるんだ？」という技師たちの声をさえぎり、Ａさんは「だって、音っていうのは一般に波のような曲線（サインカーブ）で表されるんだろ。だから、騒音が表す波形

今年もタンチョウが釧路湿原へ、オオハクチョウが新潟県の瓢湖（ひょうこ）へやってきました。そして、何羽が飛来したか、詳しい端数まで報告されています。これらの鳥は１羽１羽、丹念に数えられるのですが、森などに住むふつうの野鳥は、いったいどんな方法で数えるのでしょうか。　基本的には２つの方法があります。１つは、営巣の時期に１羽１羽を正確に把握しようとするもので、テリトリー・マッピング法と呼ばれています。もう１つは、およその概数をつかむもので、ライン・トランセクト法とかライン・センサス法と呼ばれています。このうち、ライン・トランセクト法ではやさしい比例法則を利用しているので、それを紹介しましょう。　まず、道などに沿って、森の中を勝手に歩きます。ここでは、仮にモズを数えるとします。歩きながら、左右のモズだけを探します。探す範囲は、例えば左右に２５メートルずつと決め、その範囲で見つけたモズを数えます。図

【秋山仁のこんなところにも数学が！】（４４）ゴシップは千里を走る (1/2ページ) 2008.12.2 08:02 いつの時代も、どこの世界でも、人間はうわさ（ゴシップ）好き。「ここだけの話だけど…」とは、何とむなしい言葉でしょうか！　１人の口から新しいうわさが発せられると、うわさはうわさを呼んでアッという間に多くの人々に広がっていきます　１９７０年代の初めに、ベーカーとショスタックという研究者が“ゴシップ問題”と呼ばれるテーマについて考えました。いま、１０人それぞれが、ほかのどの人も知らない独自のゴシップネタを持っているとしましょう。この１０人が、携帯電話で互いの情報を交換し合います。このとき、例えば、ＡさんとＢさんの間の１回の通話で、Ａ、Ｂ、それぞれがその時点で持っている情報すべてを互いに相手に教え合うものとします。１０人の誰もが１０種類の情報すべてを入手するためには、合計で何回の通

年末年始は同窓会のシーズンです。全国各地に住む同窓生が一堂に会するためには、集合場所をどこにするかが重要になります。　いま、博多９人、大阪１０人、名古屋９人、金沢３人、東京９人、千葉４人、新潟２人、仙台３人、秋田１人、札幌１０人の計６０人の卒業生がいるとします。交通費の負担に差が出ないよう、全員の交通費を合計して割り勘にし、交通費は移動距離に比例するものとします。さて、このとき、どの都市で同窓会を開催すれば、交通費を最少（すなわち６０人の移動距離の合計を最少）にできるのでしょうか。ただし、移動には図１の鉄道網を利用するとします。　この問題を考える前に、よりシンプルな問題を考えましょう。仙台３人、秋田１人が秋田に集まれば、４人の移動距離の合計は、仙台の３人が１７０キロ移動することで１７０×３＝５１０キロ。しかし、仙台にすれば、秋田の１人が１７０キロ移動するだけで済みます。では、仙台と秋田を人

【秋山仁のこんなところにも数学が！】（４６）スピードガンはハイテク機 (1/2ページ) 2008.12.16 07:31 有望なアマチュア選手が出る野球の試合があると、スタンドには日米たくさんのスカウトマンがチェックに来ます。バックネット裏で、スカウトがホームビデオ機のような形をしたスピードガンを片手に、赤い光線を発射しながら、投手の球速を測っています。さて、あのガンは、どうやって球速を測定しているのでしょうか。また、どれくらい正確なのでしょうか。　ボールが投げられた後、真っすぐに向かってくるボールに向けてガンの引き金を引くと、赤外線のレーザーが発射され球に反射し、ガンに戻ってきます。そのレーザーの一部を高感度の探知機がキャッチします。その瞬間、レーザーの発射から帰還までの時間が１０億分の１秒の頻度で計測されるのです。その後、即座にガンに内蔵されているコンピューターが、計測された時間にレ

「空を自由に飛べるサンタクロースが、世界中の各都市に住んでいる子供たち全員にプレゼントを配るために、彼はどこに住むのが一番効率的か」。外国の通信社が、こんな変わった調査の結果を伝えました。それによると、「サンタさんは中央アジアのキルギスに住むのがベストだ」ということでした。　“サンタクロースの問題”に似た“巡回訪問員問題”というトピックが、離散数学という分野で活発に研究されています。　「地図は、米国の西・南部２２都市を結ぶ高速道路網である。訪問員が、ある都市を出発してすべての都市を訪問し、出発地点に戻る最短の周遊ルートを探せ」。この問いに対し、すべての回り方を試し、それぞれの回り方の総距離を求め、それらの中で最短の周遊ルートが正解ですが、この例の場合を考えるだけでも、かなり厄介なことが分かるでしょう（ここでは省略しましたが、高速道で結ばれた２地点の距離はすべて既知とします。一例として地図の

東芝は７日、外出先で携帯電話や携帯音楽プレーヤーの充電が容易にできる手のひらサイズの小型燃料電池を、国内で初めて商品化することを明らかにした。 ４月にも売り出す方針で、近く発表する。 コンセントがない外出先で携帯電話を充電する場合、現在は乾電池式の充電器につなげるのが一般的だが、時間がかかる上、フル充電できないケースも多い。東芝の燃料電池を使った充電器であれば、家庭のコンセントにつなぐのとほぼ同じ時間で充電でき、燃料として使うメタノールが満タンであれば、４、５回のフル充電が可能だ。 発売当初の価格は２～３万円となる見通しで、将来的には１万円以下に引き下げる方向だ。別売りのメタノールを注入すれば、繰り返し利用できる。 東芝は２００９年度中に、さらに小型化した燃料電池をノートパソコンや携帯電話に内蔵し、商品化する計画だ。 燃料電池は、水素と空気中の酸素を化学反応させて発電する仕組み。元のエネル

【秋山仁のこんなところにも数学が！】（４８）自分の誕生日は何曜日？ (1/2ページ) 2009.1.6 08:11 新しい年を迎え、昨年使わなかったカレンダーや手帳を捨てるのがもったいない、と思ってはいませんか。日付と曜日の組み合わせの同じ年が再び巡ってくるまで保存しておくと、何年後に使えるのでしょうか。　今年１月の暦を見ると、木曜日は１、８、１５、２２、２９日。これらの数の共通点（１日以外）は７で割った余りが１であることです。同様に、日曜日はみな（４日以外）余りが４の日です。また、２月１日は、１月１日から数えて３１日＋１日＝３２日目で、７で割ると余りが４なので日曜日です。　このように、“◯年△月□日が何曜日なのか”は、基準の日を決め、その日から何日目かを調べ、７で割った余りを求めれば分かります。この事実と、４年に１度うるう年があることに注意して、それぞれの年の元日の曜日を調べてみると、

【秋山仁のこんなところにも数学が！】（５０）内閣支持率の信憑性 (1/2ページ) 2009.1.20 07:10 麻生太郎内閣の支持率がだんだんと下がって、ついに２０％を切りました。この数字は、電話番号を無作為に１８００人選び、回答率６０％ぐらいから割り出したものだそうです。果たして、この数字はどのくらい信憑（しんぴょう）性があるのでしょうか。　ある内閣に対し、支持しているかどうかを１０人に聞いたとします。このうち２人が支持していても、支持率を２０％とするには抵抗があるでしょう。ほかの１０人に聞けば、３人になったり、１人になったりすることもありうるからです。つまり、２０％という数字は、ちょっとした具合で３０％や１０％に変わってしまうかもしれないのです。これが１００人中２０人だと、同じ２０％でも信憑性は上がります。さらに、１０００人に調査して２００人ともなれば、２０％という数字の精度はいっ

【秋山仁のこんなところにも数学が！】（５１）年賀はがき当せん番号の調べ方 (1/2ページ) 2009.1.27 07:18 年賀状のお年玉の当たりハズレを効率的に調べる方法について解説しましょう。一般に、混沌（こんとん）としたたくさんのものの中から何かを探し出そうというときには、何らかの基準に従って分類してみると、見通しが開けます。　さて、年賀状の当たりを調べるには、例えば第一段階として、下２けたの数に着目して分類します。まず、今年の当選番号の下２けたである９８、２９、９６、６２、７０、９４、４６の７つの数をそれぞれ１枚ずつ紙に書いて、該当する年賀状をそれぞれに置いていきます。　第二段階として、９４、４６のところに年賀状があれば、それが４等の当たり。７０のところに年賀状があれば、３等が当たった可能性があるので、さらに下３、４けた目を調べます。残りの４つの番号も同様にして調べます。こうやっ

【秋山仁のこんなところにも数学が！】（５２）結び目の数学とＤＮＡの研究 (1/2ページ) 2009.2.3 08:00 「結び目」と聞いて、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか？　靴ひもの結び目、ヨットを波止場につなぐロープの結び目、新聞紙をひもで束ねたときの結び目など、物をひもで固定するときに登場するものくらいにしか考えていないのではないでしょうか。　数学の世界ではさまざまなものが研究対象にされていますが、結び目もそのひとつで、「結び目の理論」と呼ばれる分野があります。この研究の起源をたどると、１９世紀の物理学者、ケルビン卿（１８２４～１９０７）までさかのぼることができます。彼は「空間はエーテル（古人が想像した大気外の精気）で満たされていて、エーテルの中に存在する結び目の渦が原子だ」と信じ、これらの結び目を分類すれば化学元素を解明できる、と予想しました。この予想は正しくなかったのですが、

【秋山仁のこんなところにも数学が！】（５３）メビウスの輪で恋占い (1/2ページ) 2009.2.10 08:19 バレンタインの日が近づいてきました。今年はいくつチョコレートをもらえるか、とドキドキしている人もいるかもしれません。でも、ただ数多くもらえればよいというものでもなさそうです。メリーチョコレートカムパニーが公募した今年の川柳の入選作の中に、「目印に　ハゲと書かれた　チョコレート」なんてものを見つけました。次はわが身と、ひどくショックを覚えました。いくら義理チョコでも、メモ書きぐらい消す配慮をしてもらいたいものです。　そこで、メビウスの輪を使って、チョコをもらった人をよりいっそう喜ばせる恋占いを紹介しましょう。メビウスの輪とは、１本のテープを半ひねりした後、両端を貼（は）り合わせてできる輪のことです。　図１に示すものは、２本のテープを真ん中で十文字に貼り合わせたものです。縦方向

【秋山仁のこんなところにも数学が！】（５４）遠近法の謎を解く (1/2ページ) 2009.2.17 08:29 「“どこまでもまっすぐに続く並木道”という題で絵を描いてください」と言われて白い画用紙を渡されたら、皆さんはどんな絵を描きますか。道の両端をなす平行な２本の線を長々と描いたところで、その絵に遠近感がなく稚拙なでき栄えになってしまうでしょう。例えば、平行で実際には交わることのない道の両端をなす２直線を図１のように延長先で交わるように描くことで、絵に遠近感が出ます。　絵画に遠近法が導入されたのはルネサンス期です。それ以前の絵画は遠近法を無視して描かれています。“見ている物体や風景を見えている通りに紙の上に再現しよう”という考えのもと、１５世紀にイタリアのアルベルチらが透視法を考え、この画法を幾何学的に深く研究したのが、かのレオナルド・ダビンチです。　“見たままの形を合理的に紙の上に

【朝鮮半島ウオッチ】北ミサイル、日米は迎撃できない？　テポドン２号 (1/4ページ) 2009.3.7 18:00 北朝鮮が重ねて予告している人工衛星（弾道ミサイル「テポドン２」）発射。日米韓は北朝鮮の「危険な挑発行為」を国連決議１７１８違反と批判、日米両国は「迎撃の用意」を警告し、双方の駆け引きによる緊張が高まっている。しかし、迎撃となれば史上初の長距離弾道ミサイルへのミサイル防衛（ＭＤ）対処だ。米国は、日本は、本当に迎撃するのか。日米の情報分析と軍事の専門家に聞いた。　　（久保田るり子）■オバマ米大統領の政治決断は…　監視中の北朝鮮北東部の咸鏡北道舞水端里（ムスダンリ）にあるミサイル基地での発射準備作業でミサイル本体はまだ、確認されていない。ミサイルが発射台にセットされ燃料注入が始まれば、発射は不可避となる。本体を観測すれば「飛距離の推測はある程度可能」（軍事専門家）。だが、発射段階

【ロンドン＝尾形聡彦】英金融大手ロイズ・バンキング・グループは７日、約２６００億ポンド（約３６兆円）の不良資産から生じる追加損失の大半を政府に肩代わりしてもらう代わりに、英政府の出資増を受け入れると発表した。政府の出資比率（現在４３％）は６５％に引き上げられ、同行は事実上国有化される。 　英政府は英金融大手ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド（ＲＢＳ）にも約７割を出資しており、ロイズの実質国有化はこれに続くもの。英国では４金融大手のうち２行が事実上、政府の管理下に入る事態になる。 　発表によると、英政府はすでに保有している優先株を普通株に転換し、出資比率を６５％に引き上げる。このほか、ロイズが新たに発行する議決権のない株式を政府が引き受け、これを転換すれば、７５％まで上昇する可能性があるという。 　ロイズは救済合併した英金融大手ＨＢＯＳの０８年１２月期の純損益が７５億ポンド（約１兆円）の

核軍縮条約の締結に向け交渉することで合意したクリントン米国務長官（右）とラブロフ・ロシア外相＝ＡＰ 　【モスクワ＝副島英樹】「リセットボタン」は「過積載ボタン」？――。６日にスイスのジュネーブで行われた米ロ外相会談でクリントン米国務長官がロシアのラブロフ外相に、冷え込んだ米ロ関係の改善を目指す意を込めて「リセットボタン」を贈り、一緒に押した。ところが、ローマ字で表記されたロシア語は「ペレグルースカ」。リセットを意味する「ペレザグルースカ」から「ｚａ（ザ）」が抜けており、意味が「過積載」になっていた。 　外相から間違いを知らされたクリントン氏は笑い出し、「米ロ関係に過積載が起きないよう努力する」と約束。会談後の共同会見でもラブロフ外相は「我々の議事日程を満たしている積み荷は膨大だ」と機転をきかせ、「ヒラリー（クリントン）さんも私もこの重荷から免れたいとは思わない」と続けた。