メキシコ麻薬戦争開始時期には諸説あるが、1989年、ナルコ界のゴッド・ファーザー、スペイン語なら「エル・パドリーノ」、グアダハラの奸雄「フェリックス・アンヘル・ガジャルド」の逮捕、投獄こそ、その端緒である。彼の逮捕直後、残されたナルコ・スターたちは、獄中のゴッド・ファーザーの呼びかけにより、アカプルコで一週間に渡る酒池肉林のナルコ・サミットを開催した。表向きは穏やかに幕を閉じたサミットも、内実は、ゴッド・ファーザーの不在を好機とばかりに、ナルコ利権を賭けた権謀術数が渦巻いていた。 その当時、メキシコのナルコ界は、コロンビアのカリ・カルテル、メデジン・カルテルといった個別の組織が日夜を問わず血戦を繰り広げるような混沌とした状況ではなく、グアダハラのゴッド・ファーザーによって取り仕切られていた。しかし、エル・パドリーノの逮捕後、彼に替わるカリスマなど現れるはずもなく、ナルコ界は1990年代から