最近でこそやや沈静化したが、何かの機会にしばしば論議になる。南京事件の虐殺は本当にあったのか、あったとしたら犠牲者はいったいどれくらいだったのか。本書『増補 南京事件論争史』(平凡社)は、この事件についての近年の様々な議論を中国現代史の研究者、笠原十九司・都留文科大名誉教授が丹念にトレースしたものだ。2007年に刊行された原著に、最近の10年分を付け加えて、このたび「増補版」が出た。 「不毛で熾烈な論争が繰り返されてきた」 「一九三七年一二月、南京市を占領した日本軍は、敗残・投降した中国軍兵士と捕虜、一般市民を殺戮・暴行し、おびただしい数の犠牲者を出した。この『南京事件』は当時の資料からもわかる明白な史実であるにもかかわらず、日本では否定派の存在によって『論争』がつづけられてきた。事件発生時から現在までの経過を丹念にたどることで、否定派の論拠の問題点とトリックを衝き、『論争』を生む日本人の