立教大学 特任教授 江口 徹 私達の敬愛する南部陽一郎先生がさる7月5日に心筋梗塞のためにお亡くなりになりました。享年94歳でした。南部先生は戦後に現れた世界最高の理論物理学者のお一人で、現在の素粒子論の形成に非常に重要なお仕事をいくつも残されました。 我々の世代の研究者にとって先生は空に輝くあこがれの星のような存在でアイドルのような人物でした。先生が亡くなられたのは誠に残念でなりません。 素粒子というのはこれ以上分割できない自然界の最も基本的な粒子で、これらの粒子を分類したりその間に働く力を明らかにするのが素粒子論の役割です。現在、素粒子の間には「強い力」、「弱い力」など4種類の力が知られています。日本は中間子を発見した湯川先生以来、素粒子の研究には優れた伝統があります。 南部先生のお仕事で最も特徴的なところは、先生の研究が常に他の物理学者達の仕事にくらべてその数年先、10年先を歩んでい