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  • ラヴェル 曲目解説:ミラージュ、または鏡

    1.総論 この曲集から楽譜を見ただけではラヴェルの音楽を理解することが不可能になる。当時の文化的なこと、特に文学や絵画や舞台芸術に関する幅広い理 解が必要となってくる。今回私はこれらをある程度理解したうえで解説を進める。なお、このような視点でこの曲集を解説している人を見たことがな い。おそらく弾いている人も、フランスで勉強した人を除いては、あまり理解しないで弾いていると思われる。 この曲集は、「アパッシュ」という芸術家集団に属していた人に献呈されている。この点はきわめて強く意識する必要がある。当時の パリにはそういった芸術家集団がたくさんあった。ドビュッシーは当然のこととして、ピカソやランボーもこういう集団の中で作品を発表し、批評し あって互いに成長していった。当時はエログロを否定せず、むしろ醜悪こそが美であるという過激な、一種の「あべこべな価値観」が主流であった。ラ ヴェルのこの曲集もそ

  • ラヴェル ピアノ独奏曲全集比較

    テクニック的に極めて高度な完成度に到達しているピアニストによる全集である。技術面ではほぼ文句のつけようがない。ほとんどのピアニストが弾ききれずに減速してしまうパッセージもインテンポで弾きのける。作曲家自身の言葉より、ラヴェルのピアノ曲は基的にインテンポで弾くべきであり、それを体現しているといってよい。また、このピアニストは強弱表現が非常に精緻なことが特徴で、楽譜に書かれたデュナーミク指示を神経質なくらい守っている。短いスパンで急激にクレシェンド/デクレシェンドする表現や、速いフレーズに付けられたエスプレッシーヴォ指示(くさび型の記号)も明確に聞かせるため、他のピアニストでは機械的に処理されやすいパッセージが有機的なうねりとなって聞こえてくる。従来のフランス流ピアニズムにロシア系ピアニズムが加わったようなタイプのピアニストのため、デュナーミクのレンジが広く、ドラマティックな表現が随所に見ら

  • ラヴェル 曲目解説:高雅で感傷的なワルツ

    1.概要 「マ・メール・ロワ」と同様に、ラヴェルたちが創設したSIM(独立音楽協会)の演奏会のために作曲した。この演奏会では、新作は作者を伏せて演奏を披露し、作曲者名を推測して投票するというお客様参加形式の公開クイズをおこなった。結局、この曲をラヴェルの作品と当てた人は半数ほどで、サティと間違えた人がかなりいたようだ。演奏会自体もバカな試みとか、くだらないデモンストレーションとか、さんざんな言われようだったそうな。SIM設立の経緯にムカついた人たち(保守的だった国民音楽協会の人)にしてみれば、もっともな言い分ではある。ムカツクなら演奏会に来なければいいのに、来ちゃうのがフランス人なのねえ。 ところでラヴェルのピアノ作品は、ピアノ演奏技術的に凝ったことをやりつくした「夜のガスパール」以降は一転してシンプルな書法となる。例外は贅をつくした「ラ・ヴァルス」のピアノ編曲のみだ。この曲もシューベルト

  • ラヴェル 曲目解説:クープランの墓

    1.概要 トンボー(Tombeau)はバロック時代ではおなじみの追悼曲で、大抵は人名がついて「だれそれのトンボー」という標題になる。一般的に流布している日語表記は「だれそれの墓」になるが、こんな誤訳はそろそろやめるべきだ。このセンス皆無な和訳はどこの馬の骨がやったんだろう。クラシック音楽ジャンルはシンフォニー=交響曲、コンチェルト=協奏曲、ノクターン=夜想曲を始めとして見事としかいいようのない和訳が与えられているのに、フランス語になったとたんこのザマである。おフランス帰りのイヤミさんが訳したに違いない。シェー!(おやくそく) 以上、ひとしきり和訳に関するイチャモンをつけたところで概説は終わりである。 2.解説 私の完璧な和訳のとおり、この作品はクープランへの憧憬ではなく、クープラン時代の音楽の様式を借りた追悼組曲である。なので、クープランの諸作品とは直接的な関係はない。ここでバッハを引き

  • ショパンエチュード比較

    松沢ゆき(Novalis Classics/1959-60) メカニック的には完璧。音色もよくコントロールされています。そういう点ではすごく評価が高い演奏なのですが、全体的に解釈が作為的で、演奏の品 位を落 とし ていると思います。フレーズが繰り返されるときには変化を付けないと気が済まないし、楽想変化も大袈裟に表現しないと気が済まないようです。左手の進 行や 内声の動きを強調したり、リズム表現を考えたり、よく考え設計されているのですが、それが完璧であればあるほど白けてしまう。いろいろ手をかけたこと が十 分に表現されるため細部ばかりが目立ってしまい、小手先の表現に終始して曲全体としては散漫な印象を与えてしまいます。表現に内的必然性が感じられな いの は致命的です。早い話が、ショパンが楽譜に書いた以上のことをやりすぎて失敗していると思います。これだけいろいろやっているのにもかかわらず、装飾

  • ショパン ピアノ協奏曲 CD比較

    ショパンピアノ協奏曲 CD聴きくらべ 1.名盤編 ショパンのピアノ協奏曲はラフマニノフの協奏曲のような壮大さはないものの、ショパン独特のフレーズ・奏法が全編で展開されているためピアノパートの演奏は譜面の見た目以上に難しいのが特徴です。全曲がきちんと演奏されているショパンエチュードの録音が少ないのと同様に、この協奏曲をごまかしなしに、そして情感豊かに演奏できている録音は意外に少ないのです。 クリスティアン・ツィメルマン(ピアノ&指揮!)、ポーランド祝祭管弦楽団(Deutsche Grammophon/1999)<決定盤> 1番・2番を収録した2枚組CDです。作曲されて170年間、ここまで踏み込んで演奏した人は誰もいませんでした。それまでのショパンの協奏曲演奏(特にオーケストラパート)に満足できなかったツィメルマンが弾き振りすることを決心し、この2曲を演奏するためだけにポーランド中からメンバー

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