はじめて化粧をしたぐらいのころから、安崎唯の視界の端には、しばしば中年がいた。 いた。と言っても、物理的に存在するわけではない。たぶんない。視界の端の、はっきりと像を結ばない領域に、中年が立っているのが見えるというだけだ。 その中年はいつも同じではなかった。頭がはげているときもそうでないときもあったし、おかめのような顔をしているときもあればトーテムポールの三段目のような顔をしているときもあった。ただいずれも全裸で、腐ったさぼてんのようなぶよぶよの肉体をしていた。 中年は視界の端であれば上下左右どこにでも現れた。そして彼らのふるまいはしばしば背景と同化していた。彼らは電信柱に抱きついていたり、草むらに埋まっていたり、月の光に透けていたり、道ゆく老婆の紫色の髪をただしげしげと見つめていたりした。 異常であった。 むろん異常であった。幻覚であった。唯も自らの視界に映るそれらの存在が異常であること