東山魁夷 Higashiyama Kaii(1908-1999) こんなにも美しい風景を見たであろうか。 おそらく、平凡な風景として見過ごしてきたのにちがいない。 もし、再び絵筆をとれる時が来たなら・・・私はこの感動を、いまの気持ちで描こう。 「春を呼ぶ丘」1972(昭47) 私が初めてふれた東山画伯の作品。 中学校の国語の教科書の表紙に使われていたこの作品を、 小春日和の授業中によく眺めていた。 もうすぐ訪れようとする春が色彩のささやきにのって、 見るものの体に流れ込んでくる。 立ち並ぶ木々のリズムは息吹く大地の鼓動。 たった一枚だけで、魁夷は憧れの画家となった。 横浜で生まれ神戸で育った魁夷は、父の遊び癖に悩む母を喜ばせたいと、「大きくなったら偉い人になるんだ」と思い続けていた。自然に恵まれて育った彼は画家になりたいという願望が次第に強まり、反対する父親をしぶしぶ承知させ、現在の東京芸