今回はナチスドイツ時代を舞台にした小説2冊について取り上げます。 極力ネタバレしないように努力しますが、多少内容に触れる箇所がありますのでご了承下さい。 ①佐藤亜紀著『スウィングしなけりゃ意味がない』(以下①) ②深緑野分著『ベルリンは晴れているか』(以下②) ①は第二次世界大戦中のドイツが舞台。当時敵性音楽とされたスウィングに魅了された少年の物語。モチーフになっているスウィング・ボーイズは実在したそうな。 一方②は第二次世界大戦後、1945年8月のドイツを現在として話は進みます。両親をナチスドイツに殺された少女・アウグステが主人公です。主な舞台は戦後ですが、幕間としてアウグステの過去、つまりナチスドイツが現れる辺りから戦時中にかけても描かれているので、実質ナチスドイツ時代がテーマと言っていいでしょう。 両者とも読後は(異論もあるかと思うが)爽やかな印象も受けるが、それぞれの主人公が辿った
十八世紀、ベルギー。親が死に、亜麻糸商のファン・デール家に引き取られたヤンは、男女の双子と共に育てられることとなった。人付き合いはいいがどこか人生を諦観している少年テオと、並外れた天才で変わり者の少女ヤネケ。ある日、農園で兎の交尾をみていたヤンは、一緒にいたヤネケに、〈出来るか?〉と訊かれる。ヤネケの好奇心に付き合うように、ヤンはヤネケと交わり、いつしかヤネケはヤンの子を身籠もる。ヤンはヤネケと所帯を持つことを望むが、ヤネケは子どもを産むだけ産むと、生涯独身の女たちが住む「ベギン会」へと移り住んだ——。 佐藤亜紀の『喜べ、幸いなる魂よ』は、自然がもたらす自由と偶然を祝福する物語だ。自然というものを単純化して人間を眺めると、雄と雌が番(つが)いとなり、子どもを産み育て、種をつなぐという"摂理"らしきものが見えてくる。だが無作為で無目的な自然は、そんなわかりやすい摂理だけでは回らない。自然は被
第74回読売文学賞小説賞を受賞しました。 2023年2月1日、第74回読売文学賞(主催:読売新聞社)が発表され、佐藤亜紀の長編小説『喜べ、幸いなる魂よ』 Jubilate, o vos animae beatae(KADOKAWA、2022年3月刊)が小説賞を受賞しました。 受賞おめでとうございます。 読売文学賞 第74回読売文学賞 受賞6氏と作品 : 読売新聞オンライン(会員限定記事) 読売文学賞に佐藤亜紀さんら 山内ケンジさん、沢木耕太郎さん | 共同通信 読売文学賞決まる:朝日新聞デジタル 第74回読売文学賞受賞! 佐藤亜紀『喜べ、幸いなる魂よ』 | 商品・サービストピックス | KADOKAWAグループ ポータルサイト(著者受賞コメントあり) 佐藤亜紀『喜べ、幸いなる魂よ』 Jubilate, o vos animae beatae (第74回読売文学賞受賞) 読売新聞社、出版社K
「小説は、しょせん作りものだ」という声があります。でも、「小説でしか描けない現実」は確実にあります。 圧倒的な暴力で命と生活を破壊し、すべてが数値化され、私たちの身を竦ませる戦争――何をしていいかわからない。こんな時こそ、佐藤亜紀さんの物語を手にしてほしいと切実に願います。 著者は、国家と権力、そして人間をテーマに、物語を紡ぎ続けてきました。戦争、革命など圧倒的な暴力を前に、人間は何ができるのか? 何を守るのか? そんな問いかけとともに、作品の中でさまざまな人間の闘い方が描かれます。 ダサいナチスにジャズで対抗した少年少女たち。戦時中、スパイ戦の道具にされた異能の青年たちが、人生を掴み取るため反旗を翻す姿。大戦末期、陰謀渦巻く中、論理と交渉術のみで命がけの任務を果たしたノンキャリアの役人――。 角川文庫の最新刊『吸血鬼』は、19世紀ポーランドを舞台に、都市部から田舎の僻村に着任した役人ゲス
2023年2月1日(水)に第74回読売文学賞(主催:読売新聞社)が発表され、株式会社KADOKAWA(本社:千代田区富士見)より刊行しました、佐藤亜紀著『喜べ、幸いなる魂よ』(2022年3月2日刊)が小説賞を受賞しました。本作品は、18世紀のベルギーを舞台にした、幼なじみふたりの40年にわたる大きな愛の物語です。 ★作品情報:https://www.kadokawa.co.jp/product/322102001022/ 著者近影 写真/後藤利江 ◆受賞の報を受けて喜びのコメントが届きました このたび『喜べ、幸いなる魂よ』が読売文学賞小説部門を受賞することになりました。研究者志願時代から私淑する鷲見洋一先生の大著『編集者ディドロ』の研究翻訳部門での受賞と同時ということで光栄もひとしおです。 ヨーロッパの十八世紀は、フランス革命以後を除けば、創作の分野では関心を持たれることが多くはない時代だ
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変わりゆく時代を懸命に泳ぎ渡ろうとするふたりの大きな愛の物語。 新刊【長編小説】佐藤亜紀『喜べ、幸いなる魂よ』レビュー 書評家・作家・専門家が新刊をご紹介! 本選びにお役立てください。 佐藤亜紀『喜べ、幸いなる魂よ』 評者:川本 直 そのデビューから佐藤亜紀氏は完成された小説家だった。『バルタザールの遍歴』はオーストリア゠ハンガリー二重帝国の公爵家に生まれた一つの体に二つの魂を宿すメルヒオールとバルタザールという貴族の主人公が、ナチス・ドイツの台頭によって荒廃していく黄昏のヨーロッパを流浪しながら第二次世界大戦勃発とともにブエノスアイレスに向かうまでを超絶技巧で描き、「国際舞台にも通用する完璧な小説」と称された。 その登場から圧倒的な完成度を誇る作品を世に問う小説家は稀有だ。そして、『キャッチ=22』で世に出たジョーゼフ・ヘラーのように最初から代表作を書いてしまった作家はデビュー作を超える
【読売新聞】 知的で物語性豊かな作風に定評があるベテランは、ふしぎと大きな賞に縁遠かった。歴史ある賞を受け、「少し気が楽になりました。でも、ここから頑張らないと」。喜びの言葉は、そのまま決意表明になった。 受賞作『喜べ、幸いなる魂よ
Published 2023/02/01 05:00 (JST) Updated 2023/02/01 05:17 (JST) 第74回読売文学賞(読売新聞社主催)が1日付で発表された。賞金は各200万円。 各賞の受賞者は次の通り。(敬称略) 【小説】佐藤亜紀「喜べ、幸いなる魂よ」(KADOKAWA) 【戯曲・シナリオ】山内ケンジ「温暖化の秋―hot autumn―」(上演台本) 【随筆・紀行】沢木耕太郎「天路の旅人」(新潮社) 【評論・伝記】尾崎真理子「大江健三郎の『義』」(講談社) 【詩歌俳句】藤井貞和・詩集「よく聞きなさい、すぐにここを出るのです。」(思潮社) 【研究・翻訳】鷲見洋一「編集者ディドロ 仲間と歩く『百科全書』の森」(平凡社)
良本だった。しかし難しかった。主だった登場人物に普通の意味で感情移入できないからだ。しかも普通と逆の意味では共感できるのだ。 未婚で子どもを作っておいて自分は自由なまま生き、妻に自分の実家の商売や家族の面倒を見させる夫。未婚で身籠った夫との子どもを産み育てながら、夫不在で夫の家族の面倒を見て夫の実家の商売を手伝う妻。このような構図なら現代では怒りは湧こうとも時にはある話として理解はできる。 しかしこの本では構図がまったく逆なのである。男女の立場がもし逆になった時、フェミニズムの概念は消滅するのだろうか。 「酷い女に騙された」というフレーズが作中に出てくる。確かに酷い女だし本人もそれを否定しなそうなキャラクターだ。 持ち前の好奇心で妊娠し子どもは産んだものの手元で育てることはなく。家庭を作り産まれた子を育てようと言う子どもの父親の願いに応えることはなく。自らのしたいことをするために都合のいい
書評家・作家・専門家が《新刊》をご紹介! 本選びにお役立てください。 (評者:杉江松恋 / 書評家) 一口で言うなら、宮仕えの土性っ骨ってやつだ。 佐藤亜紀『黄金列車』の舞台は第二次世界大戦末期のハンガリーである。東部戦線からのソ連軍侵攻に備えて同国は、経済資源の多くを貨物列車によって国外へと退避させた。後に「黄金列車」と呼ばれるのはその中でも異質な存在で、ユダヤ人からの没収財産を移送する目的で秘密裡に運行計画が立てられた。指揮を執ったのはユダヤ資産管理委員会委員長であるトルディ・アールパードだが、作者は大蔵省官吏のエレメル・バログを視点人物として置いている。第一章の章題にもなっている一九四四年十二月十六日はこの黄金列車が動き出した日付だが、小説は「バログが妻を亡くしたのは、七月の初めのことだった」という文章で書きだされており、彼が亡き妻・カタリンと過ごした日々の回想が現在の出来事と並走す
解説 杉すぎ江え 松まつ恋こい(書評家) 矜持を持って生きることについての小説である。 何が心中にあっても、ひとまず生きる。人として必要なこと、任されたことをやる。 その連続で日々を送っていく。簡単には、死なない。死ぬよりも先にすることがあるから。 第二次世界大戦末期のヨーロッパを舞台にした佐さ藤とう亜あ紀き『黄金列車』はそういう小説だと私は考える。信念に基づいて生き、苦難を乗り越えていく人間を描いたという意味では第一級の冒険小説であり、史実と虚構を絶妙な形で配合した歴史小説でもある。奥付によれば単行本版の刊行は二〇一九年十月三十一日、その年度の最も重要な作品であったと自信を持って言うことができる。人間を描いた小説に求めるもののすべてが、この中に詰まっている。 作者により「黄金列車についての覚書」が付されているので屋上屋を架すことになりかねないが、解説からご覧になる読者のため、ロナルド・W
佐藤亜紀の長編小説『喜べ、幸いなる魂よ』 Jubilate, o vos animae beatae(KADOKAWA)に関する私の感想ツイートをまとめました。 天才でエゴイスト 誰も彼女には手が届かない 18世紀ベルギー、フランドル地方の小都市シント・ヨリス。ヤネケとヤンは亜麻を扱う商家で一緒に育てられた。ヤネケはヤンの子を産み落とすと、生涯単身を選んだ半聖半俗の女たちが住まう「ベギン会」に移り住む。彼女は数学、経済学、生物学など独自の研究に取り組み、ヤンの名で著作を発表し始める。ヤンはヤネケと家庭を築くことを願い続けるが、自立して暮らす彼女には手が届かない。やがてこの小都市にもフランス革命の余波が及ぼうとしていた――。女性であることの不自由をものともせず生きるヤネケと、変わりゆく時代を懸命に泳ぎ渡ろうとするヤン、ふたりの大きな愛の物語。 喜べ、幸いなる魂よ | 佐藤 亜紀 |本 | 通
佐藤亜紀『喜べ、幸いなる魂よ』が第74回読売文学賞小説賞を受賞しました。 2023年2月1日追記。『喜べ、幸いなる魂よ』が読売文学賞小説賞を受賞しました。 佐藤亜紀の長編小説『喜べ、幸いなる魂よ』 Jubilate, o vos animae beatae(KADOKAWA)が、2022年3月2日、KADOKAWA(角川書店)から単行本と電子版が出版されました。 「喜べ、幸いなる魂よ」 佐藤 亜紀[文芸書] – KADOKAWA 天才でエゴイスト 誰も彼女には手が届かない 18世紀ベルギー、フランドル地方の小都市シント・ヨリス。ヤネケとヤンは亜麻を扱う商家で一緒に育てられた。ヤネケはヤンの子を産み落とすと、生涯単身を選んだ半聖半俗の女たちが住まう「ベギン会」に移り住む。彼女は数学、経済学、生物学など独自の研究に取り組み、ヤンの名で著作を発表し始める。ヤンはヤネケと家庭を築くことを願い続ける
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