『レ・ミゼラブル百六景』という解説書を書いていることもあって、たぶん、私は日本ではヴィクトル・ユゴーのこの傑作について一番よく知っている人間の一人だろう。だから、どんなによく出来た映画を見ても必然的に点が辛くなるのだが、舞台のヒット・ミュージカルを『王様のスピーチ』のトム・フーパー監督が映画化したこの作品だけは文句のつけようがなかった。それどころか、ラスト・シーンでは思わず涙がこぼれてきて、隣席の妻から「あなた泣いているの?」と驚かれた。もちろん、妻も涙で目を赤くしていた。 では、なぜ、感動しないはずの私まで泣いたのかといえば、それは、まず第一に、歌というものの圧倒的な力だろう。ヒュー・ジャックマン、ラッセル・クロウ、アン・ハサウェイ、アマンダ・セイフライド、サマンサ・パークスといった名優たちが吹き替えなしで熱唱するヒット・ナンバーは私のようなスレッカラシの心も激しく揺さぶるのだ。とくに、