犬を飼おうと思う。 わたしがそのように言うと彼は首を曲げてこちらを見たあと、ゆっくりと元に戻した。そうして、いいんじゃないですか、と言った。この人が敬語を使うのは、わたしに何かを言い聞かせたいときと、もっと突っ込んで聞いてほしいときである。そこでわたしは尋ねる。うちに犬がいたら、あなた、あまりよい気持ちがしないかしら。もちろんここはわたしの家だから、好きにするのだけれどもねえ。 わたしたちはこの一年ほど、週末にたがいの部屋を行き来している。わたしたちはいずれも一人暮らしで、少なくともわたしはそれをやめるつもりがない。住まいは都市のマンションであって、庭などはないから、犬と暮らしたいなら小型の犬種を室内で飼う。ここまでは確定事項である。 彼は言う。犬は嫌いではない。アレルギーとかもない。犬のいる家に行く程度なら、とくに問題は感じない。見ているぶんには可愛いと思う。進んで飼いたいとは思わないけ
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