うとうととして眼(め)が覚(さ)めると女は何時(いつ)の間(ま)にか、隣の爺(じい)さんと話を始めている。この爺さんは慥(たし)かに前の前の駅から乗った田舎者(いなかもの)である。発車間際(まぎわ)に頓狂(とんきょう)な声を出して、馳(か)け込んで来て、いきなり肌を抜いだと思ったら脊中(せなか)に御灸(おきゅう)の痕(あと)が一杯あったので、三四郎(さんしろう)の記憶に残っている。爺さんが汗を拭(ふ)いて、肌を入れて、女の隣りに腰を懸けたまでよく注意して見ていた位である。 女とは京都からの相乗(あいのり)である。乗った時から三四郎の眼に着いた。第一色が黒い。三四郎は九州から山陽線に移って、段々京大阪へ近付いてくるうちに、女の色が次第に白くなるので何時の間にか故郷を遠退(とおの)くような憐(あわ)れを感じていた。それでこの女が車室に這入(はい)って来た時は、何となく異性の味方を得た心持がした
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