現代アメリカ文学の紹介者として知られる東大教授の柴田元幸さん(59)が3月で、1988年から勤めた同大を定年を前に退官することになった。専任教員としての最終講義が3月22日、行われた。 「21世紀のアメリカ小説」と題し、この30年の潮流を主に振り返った。ポール・オースターをはじめ、柴田さんが翻訳する作品は、幻想的で現実の揺らぎを感じさせるものが多く、日本の実作者らにも影響を与えてきた。 だが実は、自身が本格的に翻訳を始めた80~90年代のアメリカ文学は、現実を超えた世界を描く実験的な文学は退潮傾向だったという。「微妙な人間関係の差異といった淡いリアリズムの文学が多かった」。その流れに沿わない作品を訳してきたと振り返った。 一方で、<わたしたちはみんな〈糸を作るもの〉になりつつある>と、2013年にカレン・ラッセルが発表した短編集の一編「帝国のための糸繰り」(藤井光訳)の奇妙な一節を紹介。今