エルヴェ・ル・テリエ『異状』 2020年度ゴンクール賞 「降って湧いたような話」という日本語表現がある。これは空からとんでもないものが降ってくるのと地面からとんでもないものが噴き出るのが同時に起こるほどの予期不能な大カタストロフィーの比喩である。超大予算のパニックSF映画を想ってくださって結構だが、現実に昨今頻発する地球上の気候変動大災害はすべて降って湧いたような現象である。で、この2020年ゴンクール賞作品は降って湧いたような小説である。 作者エルヴェ・ル・テリエは私は初めて読む作家であるが、1957年生れ、現在63歳。数学と言語学を専攻した全学問オールマイティーの碩学であることは、本書のいたるところにその片鱗がちりばめられている。私のような器からはこういう言い方しかできないが、この御仁は何でも知っている。ミクロ/マクロな科学、医学、先端テクノロジー、世界史/世界地理と民俗学、宗教(各教