男女あるいは同性同士の性的な場面を赤裸々に描き、江戸時代に人気を集めた「春本」。この春本には西洋のいわゆる「エロティカ」(エロティック本)にはない、独自の性表現が見られるという。 英リーズ大学名誉准教授エリス・ティニオがその独特な世界を解説する。 大衆のための性表現 江戸時代(1603-1868年)の日本では、正確に性行為を表現することは重要な芸術ジャンルのひとつだった。 「春本」の登場以前には、位の高い武士や裕福な商人たちは高名な画家に依頼して、エロティックな絵画の巻物を作らせていた。 しかし、17世紀半ばに商業出版が発展すると「春本」という挿絵本が登場し、性表現が広範な大衆にも手が届くようになった。 春本は1923年の関東大震災のときの大火災と第二次世界大戦終盤の空襲によって多くが焼失してしまったが、およそ2000部が現存している。 春本はすでに江戸末期の1680年には、画家、作家、版
