東京都美術館でのバルテュス展は、展覧会としてはあまり「冴えて」いない。会場ではいろんな仕掛けを施して、いわばバルテュス神話=孤高かつ独自の美意識をもった巨匠画家、といったイメージを強化しようとしているのだけれど、作品の展示自体があまりに作品が求めるものとずれているために、ことごとくその神話の形成に失敗している。ではダメな展覧会なのかというとそうでもなくて、いわば演出しようとしてしきれなかった雰囲気の中から、逆にむき出しの作品が見えてきて、結果的に冷静にバルテュスを見ることができる。 ごく簡単に、おそらく少しでも美術を見慣れているものなら、バルテュスがまったく「孤高」ではないことが一目でわかる筈だ。明示的に模写なども展示されていたピエロ・デッラ・フランチェスカの影響のほか、あからさまに近い時代の作家からも様々なものを導入している。シュルレアリスムでいえばキリコなどがわかりやすい(デルボーも似