熊本県黒川温泉は全国屈指の温泉地として、常に全国で1~2位を争う人気を誇っている。今回はこの小さな山間の温泉街がなぜ、多くの観光客を引き付けるのかを追った。そして、人気の背景に黒川温泉の魅力を最大限に生み出す「黒川温泉一旅館」とする独自のビジョンと、それをカタチにしていく「街づくり協定」の存在が大きく浮かび上がってきた。それらは、なぜどのような経緯を辿って生まれたのか、その核心に迫ってみた。 小さな山村の温泉街は、交通の便の悪さに苦戦 黒川温泉は標高700mの熊本県阿蘇郡南小国町、田の原川渓谷に位置する阿蘇温泉郷の一つで、熊本・別府市街から共に約70~80kmと、車で1時間30分を要する。大分県湯布院温泉からは約45kmの距離があり、標高1330mの牧の戸峠を越えて1時間程の山間部とあって、交通の便は決して良いとはいえない。 黒川温泉は戦前までは、全国各地にみられる湯治客主体の療養温泉地で