――足利事件の菅家利和さん、厚労省の村木厚子さんの事件などで、えん罪は社会的にも注目されていますね。 原田 裁判は証拠で争うものです。「証拠から合理的に判断すると、この被告は犯人じゃない可能性がある」と裁判官が思うような立証しか、検察ができていないのであれば、無罪にしなければいけません。つまり、「合理的疑いを差し挟む余地がない」だけの立証を検察ができないのであれば、有罪にしてはいけないのです。無実の人に刑罰を科すことは、同時に真犯人を野放しにすることにもなります。 ただ、無罪判決を出しやすい裁判官は、批判の対象になりやすいんですよ。「言い逃れをする被告人を、きちんと有罪にしてほしい」という思いが社会には根本的にありますから、社会の敵を野放しにしていると見られてしまうのです。菅家さんのような悲惨な例が出てきて初めて、えん罪の存在を社会は知るのです。無罪判決が多い裁判官は変人扱いですよ。 ――
41年間にわたり裁判官を務め、現在は慶応義塾大学大学院法務研究科で教鞭を執っている原田國男氏の著書『逆転無罪の事実認定』(勁草書房)が話題になっている。 原田氏は、裁判官時代、主に刑事裁判を手がけ、東京高等裁判所部総括判事時代の8年間で、20件以上の逆転無罪判決を出したことで有名である。1審で有罪判決が下された事件の控訴審で、無罪判決が出ている割合はわずか0.3%。全国の裁判所の全事件をかき集めても、せいぜい年間20件くらいしか出ていないというのが、日本の刑事裁判の現状だ。 その原田氏に、 「知られざる裁判、法廷、そして裁判官の実態」 「えん罪や、検察による調書ねつ造が生まれる理由」 「判決を出すということの難しさと重さ」 などについて聞いた。 ――まず初めに、原田さんが検事や弁護士ではなく、裁判官になられた理由をお聞かせください。 原田國男氏(以下、原田氏) そうですねえ。これといった決
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